第39回(2008年)
JOMO童話賞
【中学生の部 優秀賞】

秋雨丸作者:大原映美

秋雨丸

 それから、わたしは毎日、秋雨丸のいる海に遊びにいった。
 ある秋の、葉っぱが赤く染まりだした日のこと、
「そういえば、わしの妻は八千代号といっての。べっぴんさんじゃった。千代も、将来はそうなるんじゃの。」
「ふふっ、わたしは八千代さん、見たことないわ。あとで紹介してね?」
 と、笑いあった。
 ある冬の、いてつく空気が支配する日のこと、わたしは秋雨丸に古傷を見つけて、
「おお、この傷はの、昔、若いころにカジキマグロと戦ってついた傷じゃ。男の勲章じゃて。」
 と、武勇伝を聞かされた。  毎日、わたしは秋雨丸をスケッチした。時間があれば水彩絵の具で色をつけたし、描くごとに秋雨丸はかっこよくなっていった。
「まったく、照れるのう。こんなぼろ船、描いたって意味はないだろうに。」
 と、いつも秋雨丸は照れていた。
 ある日、秋雨丸はこう言っていた。
「死ぬときは、海の上で、死にたいんじゃ。冒険した、あの海の上で、眠りたいんじゃ。」
 きっとそれは、無理だとわかっていても、秋雨丸の唯一の願いだったのだろう。  わたしは、何でそんなこと言うのよ、と笑った。
 秋雨丸は、まだ死なないの。
 秋雨丸はそれを聞いて、少し困ったように笑った。
 あれから一年。もうこの海に秋雨丸はいない。
 秋雨丸がしゃべった、というのは幻想だったかもしれない。でも、思い出は、本物だ。
 ビリリ、とわたしは秋雨丸の絵をスケッチブックからやぶりとった。
 それは、一番かっこいい秋雨丸だった。
 水彩絵の具で描かれた秋雨丸が、風に揺れる。
 わたしは、秋雨丸を風にまかせた。
 ひゅうう……ぴしゃん。
 海に落ちた秋雨丸は、ゆらゆらとただよっていたけれど、やがて水の中に溶けていった。
 秋雨丸は、海に還ったのだ。

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