第40回(2009年)
JOMO童話賞
【一般の部 優秀賞】

中村さんの宿題作者:松本恵子

中村さんの宿題

「そうですか。どうせわたしひとりでは食べきれませんので。」
 どうぞ入ってお持ちなさい、という言葉を中村さんはあわてて飲みこんだ。外からは見えないが、実は庭は雑草も生い茂っているし、捨てようとしたゴミも出しっぱなしのまま。去年まで奥さんが手入れしていた庭に比べると、冒とく的ともいえる散らかりようだ。
「あ、えーと、今日はこれから出かけるのですが、そうですね、金曜日ぐらいに、お友だちも誘って、ぜひまた夏みかんを取りにいらしてください。」
 なにせ三本の木に鈴なりになる量だ、もらってくれるならありがたい。金曜の再会を約束して、母と子はやっと帰っていった。まだ事情が飲みこめていない少女は、
「夏みかんのおばちゃん、病気? おみやげわたして。」
 と、手にした花束を置いていった。
 たんぽぽとクローバーの花束をコップに入れて仏壇に上げ、チーンとカネを鳴らして拝んでから、初めて中村さんは「えらいこっちゃ」とつぶやいた。
 まず、木の下の雑草を刈らなきゃならない。外に出したゴミは、まとめてこの際ちゃんと捨てよう。中村さんは物置を引っかきまわして、カマを探しだし、さっそく庭に出た。気の早い夏みかんが二つ三つ、自分の重みに負けて、もう地面に落ちてしまっている。ざっと下草を刈って、中村さんは落ちた夏みかんを抱えて家に入った。テーブルの上に置くと、なつかしい我が家の香りが一瞬戻ってきた。
 一休みのタバコを吸い終え、中村さんは「さあて」と、また立ちあがった。とんでもない宿題を忘れていたような気がする。でもその宿題は、天国の奥さんと地上の中村さんとを、しっかりと結んでくれているようだ。中村さんは、
「まいったなあ。」
 と、言いながら、テーブルの上の夏みかんをつるりと手でなでた。

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