第43回(2012年)
JX童話賞
【一般の部 優秀賞】

黄門様のおくりもの作者:鈴木卓二

黄門様のおくりもの

 その晩、黄門様の正体を暴いてやろうと、物陰に隠れて伝言板のほうを見つめていました。一番早く出勤しても必ず一行目の言葉が書きこまれていたので、前日の夜しかありません。黒い影が近づいて、伝言板の前に立ちどまり書きはじめました。書きおわるのを見計らって懐中電灯の光をその影に当てると、光を当てられた人影は、ちょっとびっくりしたように、わたしのほうに振りかえり「見つかってしまったか。」と頭をかきながら近づいてきました。その人物は、わたしたちの駅の助役さんでした。 「書きこみが始まった二日目の夜、ぼくが見にいったとき、まだ書かれてなくてね。明日の朝お客様が寂しがるだろうと思ってついつい書きこんでしまった。次の日からも反響がすごくて止めるに止められなくなってしまってね。お客様が書きこみをしている姿を見るのがうれしくなって続けてしまった。だけど初日の書きこみはぼくじゃないよ。あれはだれだったんだろう?」
 助役は、わたしにチョークを渡し、肩をポーンと叩きその場を離れました。わたしはその伝言板を消すかどうか悩みました。そこには 「笑顔なくしてない? 水戸黄門」
 と書かれていました。みんなの明日に必要なひと言。忘れてはいけないひと言、わたしは消すのを止めてそのままに残すことを決めました。去っていく助役の後ろ姿に敬礼をしながら。
 水戸駅の小さな伝言板は、見た人々に、ほんのちょっとの幸せと勇気と絆と、そして元気を与えてくれる大切な伝言板になりました。一番最初の書きこみは、もしかすると、駅前の黄門様の銅像だったかもしれません。そんなことを考えながら、毎朝伝言板のメッセージを削除し、明日への最初のメッセージを書きこむ日々を続けています。

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