第43回(2012年)
JX童話賞
【中学生の部 優秀賞】

春風便作者:酒井那菜

春風便

 毎日のように通った公園。
 春の日。夏の日。秋の日。冬の日。
 ブランコ。桜の木。
 ──りくくん。
「りくくん。」
 呟いてみると七年前の想いがよみがえった。
 りくくんは隣の小学校に通っていた。名字も名前の漢字も知らない。おとうさんの仕事の関係で転勤が多いらしく、小学校に入る前に引っ越してきたばかりだった。
 初めて出会ったのは小一の春で、その日も確か土曜日。ゆうりは満開の桜を見に、ひとりで公園に行った。公園で一番大きな桜の木の下はお気に入りの場所だった。その桜目指して走ると、だれかがいるのが見える。少しがっかりしながらかけよると、ゆうりと同じくらいの男の子が顔を上げた。  やさしそうな眼差しで、男の子はゆうりを見つめた。ゆうりも見つめかえす。風が吹いて、はらはらと薄ピンクの花びらが落ちてきた。
「さくら、好きなの?」
 透きとおった声で、さくらを丁寧に発音して、男の子はゆうりに聞いた。
 それからはあっというまだった。ふたりは毎日のように公園で遊び、桜の木の下でひなたぼっこをした。飽きることはなかった。学校が終わって公園に行くのが楽しみで、早くりくくんに会いたくて仕方がなかった。
 でも、りくくんは二年生になる直前に引っ越してしまった。
「ぼく、また遠くに行かなきゃいけなくなったんだ。」
 とだけ言いのこして。
 りくくんが引っ越すと、ただただ寂しくてひとりで公園に行っては泣いてばかりいた。でもそんなゆうりも、二年生になると友だちも増え、しだいに公園には行かなくなった。

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