第43回(2012年)
JX童話賞
【中学生の部 優秀賞】

春風便作者:酒井那菜

春風便

 ゆうりはブランコを降りて、公園を出る。
「さくらの花びらを地面に落ちる前に三枚つかむと、願いがかなうんだって。」
 りくくんの声と笑顔を思いだす。花びら三枚つかめたのに。「りくくんとずっと一緒にいられますように」って、お願いしたのに。神様は意地悪だ。あのころのようにそう思うと、少しだけ涙がにじんだ。
 家に帰ると、迷わずあの小さな紙を点線にそって切って、水色のペンを持った。
『りくくん
 お元気ですか?
 わたしのこと、覚えてくれていますか?
 会いたいです。すごくすごく会いたい。
 話したいこと、たくさんあるの。
 七年間、わたしの気持ちは変わっていません。
 好きです。         中原ゆうり』  小さな紙なのに、びっくりするほどたくさんの文字が書けた。伝えたい気持ちを吸いとるように、ペンは紙の上をすべった。
「好き」と書くだけで、今まではっきりと気づかなかった心のすみの想いが、自分の中で「恋」になる。不思議だ、とゆうりは思った。
 夜になって部屋の窓を開けると、まんまるい月がぽっかり浮かんでいた。満月だ。風もある。ためらう理由はどこにもなかった。もしかしたら、本当に届くかもしれない。春風便の紙が届いたのが偶然だとしても、そこから起こる奇跡はゼロではないと信じたい。
 夜空に散らばった小さな宝石のような星に祈りを込めて、ゆうりは花びらの形の紙をそっと放した。想いはきっと、春風に乗ってりくくんに届くと自分に言いきかせて。
 それから二週間ほどたった土曜日。ポストを開けたゆうりは目を見開いた。桜色の紙を見つけたからだ。高まる心臓の音を聞きながら、ポストの中に手をのばす。
『ゆうりちゃんへ』
 暖かい春風が、ゆうりの頬をやさしくなでていった。

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