第44回(2013年)
JX-ENEOS童話賞
【一般の部 優秀賞】

えいさとほいさ作者:福谷博

えいさとほいさ

 えいさは、ときどき風船を膨らませて通る子に渡しています。でも、お客さんは現れません。二時間ばかり過ぎたお昼前、ふたりの前に大きな男が
やってきて、太い声で言いました。
「おー、駕籠とはめずらしい。
ひとつ国技館までたのみますわ。」
 見るとお相撲さんです。
それは、テレビでよく見る太平洋関でした。
関取は百八十キロはある巨漢です。
「ありがとうご……。」
 まで言って、ふたりは絶句しました。
 初めてのお客さんがお相撲さんとは。
「だめですかい?」
 太平洋関は、とても残念という顔つきになりました。それを見ていたえいさは、
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。」
 と言って、風船をつぎつぎに膨らませて駕籠に結びつけはじめたのです。速いこと速いこと。
あれよあれよというまに五十個ほどの風船を結びつけました。そのうちほいさが、
「へい、関取、履物はお膝にお乗せください。」
 と言葉をかけます。
 
 太平洋関は屋根とよろい戸の葭簀を跳ねあげて、大きなお尻を駕籠に押しこみました。乳母車の車輪がひしゃげそうな音を立てます。
その間にも、えいさは風船を膨らませつづけています。
やがて色とりどりの百個もの風船が駕籠の上に揺れました。周りの人たちは呆れ顔です。
ふたりは、
「これで大丈夫。では関取! 国技館へ出発です。」
「おー、頼むぞ!」  と関取。えいさは、轅の前、駕籠を挟んでほいさは後ろ。クランク型なので、ほいさも後ろから前がよく見えます。ふたりは担ぐとも引きずるともつかない格好で門前を走りだします。
「おお! こりゃああ、なかなかいい風だ。気持ちがいいね。ゴッツアンです。」
と上機嫌です。車道の車が横目に追いぬいてゆきます。人力車も追いぬいてゆきます。
歩道の自転車や人は止まって駕籠を通します。駒形橋では風船が川風になびきます。橋を渡って清澄通りを右へ。

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