わたしは休み時間がこわい。
「キーンコーンカーンコーン。」
　十分休みのチャイムが学校中に鳴りひびく。先生が教室のドアを閉め職員室に向かうと、
チャイムの音が、
「ボー、ボー。」
　ホラ貝の音に変わる。
　いざ！　合戦の時！
　３年Ｂ組三十五人の生徒の目がするどくなり、やわらかいブラウスがよろいのようにかたく変わる。
　神様のいたずらなのか、十分休みと昼休みのチャイムがホラ貝の音に変わると、三十五人の生徒は戦国武将になり、クラスで陣取り合戦が始まる。
　Ｂ組は徳川さん軍団と豊臣さん軍団の二大勢力に分かれている。わたし、小早川は、その日の巨大勢力に毎日コロコロ入れかわってもわからないように、目立たず、はむかわずトップの側で、
「うん、うん。」
　静かにうなずく。卑怯者ではない、生きるための作戦だ。十分間無難に過ごせば、合戦の終わりを告げるホラ貝が鳴る。先生が教室に戻ると、三十五人の武将たちも静かに席に戻る。かたいよろいがやわらかいブラウスに戻り、静かに授業を受ける。机の陣地が広くなったり狭くなったりしているが、先生には見えないようだ。小学生も命がけで生きている。