第45回(2014年)
JX-ENEOS童話賞
【一般の部 優秀賞】

恋する、漬物石。作者:小林弘尚

恋する、漬物石。

 百一回目のため息をついてから、イシオは、もう一度おむすびに会う方法はないものかと考えました。そして、祈ることにしました。
(ツヤちゃんにまた会えますように。できれば、もっとずっと、近くで会えますように!)
心の中で手を合わせて、そう願いました。
「軽いねえ、あんた!」
いきなり飛んできたおばちゃんぽい声に、イシオはびっくりして祈りを中断しました。
「どうにもこうにも軽すぎるったら、ありゃしない。ぽーっとしてないで、ちゃんと仕事をしておくれよ。どっしりと、あたしらの重しになってくれなきゃ、だめじゃないの。」
 その声は、イシオの下の押し蓋の、さらに下のほうから聞こえてきました。漬物に変身中の、ダイコンがしゃべっているのでした。
「で、何かあったのかい? それなら話してごらんよ、あたしが聞いてあげるからさ。」
 イシオは、ダイコンのあくの強さに圧倒されて、おむすび(ツヤちゃん)に恋をしてしまったことを、正直に打ちあけました。
 するとダイコンは、すぐさま言いました。
 「そりゃあ無理だわ。悲恋だわ。」
「え!? ど、どうしてですか。」
 とイシオ。
「言っとくけど、あんた、自分で思ってるほどいい石じゃないんだからね。中途半端な楕円形だし。そもそも高嶺の花なんだよ。」
 ダイコンはすっぱりと言いはなちました。
 イシオは、すっかり落ちこみました。
「ごめん、ちょっと言いすぎたわ。でもね、それが宿命ってものなのさ。」
 ダイコンは、今度はいくぶんやさしく言いました。
「あたしらは、おむすびに付き物だからそばに行けるけど、あんたは何しろ石だからねえ。ほら、文章にたとえるとさ、句読点のテンとマルが一緒に並んで存在することはあり得ないだろう。あるとしたら、そりゃあ奇跡だわ。」
 イシオは泣きたい気持ちになりましたが、ツヤちゃんへの想いはつのるばかりでした。

過去の受賞作品のご紹介

今までの受賞作品をカテゴリ毎に分けて
ご紹介しております。

  • 楽しい&
    元気になる話

    楽しいお話、
    元気になれる
    お話をまとめました。

    一覧はこちら一覧はこちら

  • 心が
    あたたまる話

    こころがほっこり
    あたたまるような
    お話をまとめました。

    一覧はこちら一覧はこちら

  • 心にしみる話

    心にじんわりしみる
    ような、
    胸を打つ
    お話をまとめました。

    一覧はこちら一覧はこちら

  • ふしぎな話

    ちょっと不思議で
    ファンタジックな
    お話をまとめました。

    一覧はこちら一覧はこちら

  • 動物が
    出てくる話

    いろいろな動物が
    登場するお話を
    まとめました。

    一覧はこちら一覧はこちら

  • 季節の話

    春夏秋冬、
    四季を感じる
    お話をまとめました。

    一覧はこちら一覧はこちら

童話の花束 PDF バックナンバーはこちら童話の花束 PDF バックナンバーはこちら