第51回(2020年)
ENEOS童話賞
【中学生の部 最優秀賞】

紫の紫陽花が咲く日には作者:小川桃葉 / 絵:橘春香

六月のある雨の日、いつものように図書館の帰りに忘れ物に気付いた私が慌てて館内に戻ると、いつもは無いはずの場所にガラスの扉があることに気が付いた。どうしても気になって扉を開いてみる。

鮮やかな紫色をした紫陽花が目に飛び込んできた。

「綺麗。」

思わずそう言っていた。よく見るとそこは屋外ではなくガラス張りの部屋だった。図書館の建物から飛び出しているらしく、天井までガラスでできていて、真ん中にはベンチが一つ置いてある。この図書館の周りに、こんなに沢山の紫陽花が咲いているなんて知らなかった。

天井のガラスにあたる雨の音が、部屋全体に快く響く。ポーンポーンポーン。まるで木琴の音みたいに。

その時だった。咲きこぼれている紫陽花の中から、一人の女の子が現れた。その子は窓をたたく。なぜか私は反射的にその子のそばに近づいた。そして私の指が彼女の指と重なった瞬間、その子は部屋の中に入ってきた。

「ちょっと雨宿り。」

驚いている私をおかしそうに見つめ、花のように明るく笑った女の子は、なぜか紫陽花のように見えた。

彼女はベンチの端にちょこんと腰かけた。私もその隣に座る。その時、自然と言葉がでてきた。

「なんでそんなに明るく笑えるの?」

ああ、変なこと言っちゃったかな

……そう思う間もなく彼女は、

「違うわ。笑うと明るくなれるの。」

と今度は少しだけ笑った。

「紫陽花好き?」

唐突に聞かれた。

「うん。すごく好き。あと、雨の音も。それからこの部屋も。」

気付いたらそう話していた。すると女の子は蕾がパッと開いたかのように眩しいほどの笑みを浮かべて、

「ありがとう。」

と言った。

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