六月の雨は、まるで終わりがないかのように降り続いている。
私はふと、読んでいる本から顔を上げてみる。窓枠一杯に広がった「灰色の世界」の中に、ひときわ鮮やかな一輪の紫陽花が咲いているのを見つけた私は、あの出来事を思い出す。
その頃の私の毎日は灰色だった。名門校に通う兄に、人気子役の妹。おまけに両親は元スポーツ選手。あり得ないくらいカラフルな世界で生きているであろう家族の中になぜか一人紛れ込んでいる私には、一つの取り柄も無かった。
人付き合いが苦手で運動も勉強もあまりできない。平凡で、真っ平らで、まっ直ぐなのに先が見えない「灰色の世界」。その中で一人さまよっていたあの頃の私に起こったできごとは、いったい何だったのだろうか。
その頃、私の唯一の趣味は読書だった。本を読んでいる時は「灰色の世界」から抜け出して「本の世界」に入ることができるから。
家の近くに図書館があった。そこは古風でがらんとした雰囲気の洋館だ。私は、毎日のようにこの図書館に行って本を読んでいた。
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