イワシは逃げている。体中のすべての筋肉を使って逃げている。しかし黒い影は徐々にイワシとの距離を詰めていた。仲間たちともはぐれてしまっていた。
「これまでか。」
そう思った瞬間、大きなヒレを自慢げに広げ、水面から飛び立つ美しいトビウオの姿がよみがえった。真似をして小さなヒレをけん命にバタつかせたが、やはりイワシがいるのは海の中だった。諦めきれずぎゅっと目を閉じて、さらに懸命にヒレをばたつかせた。するとイワシは何か違和感を感じた。
「あれ?あれれ?」
ぎゅっと閉じた目を恐る恐る開けてみると、海はイワシからどんどん離れていった。そしてはるか遠くに存在していた空が近づいてきて。このままずっと飛んでいられる気がした。
初めて目にする空はとても美しく、いつまでもどこまでも飛んでいたいとイワシは思った。しかし空も安全なところではなかった。ミサゴがおそってくるからだ。
おなかがすくと海にもぐり、危険になると空に飛んで逃げる。仲間から離れたイワシはそんな日々を過ごしていた。
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