ENEOSマテリアルは、OpenAIとのコラボレーションによる「ENEOSマテリアル×OpenAI GPTsハッカソン」を開催しました。本イベントには、ENEOSマテリアル本社、四日市工場から約40人が自発的に参加。普段は部署や職種を超えて交流する機会の少ないメンバーが一堂に会し、実際の業務課題に応じてAIアシスタントをカスタマイズする機能「GPTs」開発に挑戦。OpenAIから講師を招き、最新の生成AIを活用した業務効率化の可能性を探る実践的なワークショップとなりましたのでご紹介いたします。
この記事の目次
AI技術が切り拓く業務改革の可能性
本ハッカソンでは、講師から参加者に向けて、最新のGPT活用法から効果的なGPTs試作テクニックまで、実践的な知見を参加者に伝授されました。ハッカソンとは、参加者がチームを組み、与えられた短い時間の中で業務課題の抽出から解決策の検討、そしてAIを用いたGPTs試作までを一気通貫で行う、まさに"現場の知恵と創造力"が試されるイベント。
ChatGPTは、OpenAI開発のAIチャットサービス。質問への回答や要約、メール文案作成、業務アイデアの提案など、日常業務を幅広くサポートするサービスとして注目を集めています。一方、「GPTs」は、目的に応じたAIアシスタントをプログラミング知識がなくても簡単に作成できる機能として、業務効率化に大きな可能性を秘めているのが特徴です。
ENEOSマテリアルでは、企業向けに特化した「ChatGPT Enterprise」を全社導入。Enterprise版は、高度なセキュリティ機能や社内データとの連携機能を備え、会社固有の情報を活用したAI活用を可能にする法人向けサービス。特に機密性の高い情報を扱う企業にとって、データプライバシーの保護と業務効率化を両立できる点が大きなメリットとなっています。
講師からは、「ChatGPTは単に質問に答えるだけではなく、日々の業務効率化や自動化にも活用できます。参加者の皆さんが全社におけるChatGPT活用のリーダーとなってほしい」と熱い期待を寄せました。また、「GPTの活用は業務の進め方を根本から変革する可能性を秘めています。今日の体験を明日からの業務に役立ててください」と参加者へ励ましの言葉。これによりイベントの期待感が一層高まります。
業務効率化を実現する3つの重要ポイント
レクチャーではChatGPT Enterprise版の概要と効果的な活用法を紹介。特に業務効率化を実現するための以下3つの重要ポイントが詳しく解説されました。
1.適切なモデル選択
・業務の性質や要求精度に合わせて最適なAIモデルを選択する
・単純な業務には軽量モデル、複雑な分析には高性能モデルを使い分ける
・適切な選択によりコストパフォーマンスと処理精度を最適化できる
2.効果的な指示の出し方
・具体的で明確な指示がAIの回答精度を大きく向上させる
・目的、必要な情報、出力形式を明確に伝える
・例:「会議録をまとめて」→「先週の企画会議の議事録から決定事項とアクションアイテムを箇条書きで抽出して」
3.専門知識の組み込み方
・業界用語や社内固有の情報をAIに組み込むことで実用性が高まる
・社内規程、過去の事例、専門用語集などを知識ベースとして追加する
・Enterprise版の機能を使うと、機密情報も安全に活用可能になる
講師からは「文章生成だけでなく、状況に応じた様々なツール活用能力も向上している」との解説がありました。AIへの効果的な指示出しには、「タスク(実行内容)」「コンテキスト(背景情報)」「出力形式」「停止条件」の4要素を明確にすることが重要とのこと。
また、Enterprise版ならではの機能として、社内データを安全に活用したナレッジベースの構築や業務システムとの連携も紹介され、効率的なワークフロー実現への道筋が示されました。

チームワークで生まれるアイデア 業務課題の発掘
各チームでは、様々な部署からの参加者が自分の業務における課題や効率化できそうな業務を共有。日々の業務で感じている問題点を率直に話し合う中で、部署間の共通課題や他部署だからこそ気付ける解決策のヒントが次々と浮かび上がります。
アイデア出しの後は「技術的な複雑性」と「ビジネスインパクト」の2軸で案を整理し評価。特に「GPTs試作が簡単で効果が大きい」領域のアイデアを中心に、限られた時間内で最大の成果を出せるプロジェクトを選定していきます。普段は接点のない部署のメンバー同士によるディスカッションから、思いもよらぬ創造的なアイデアが次々と生まれました。
アイデアを形にするGPTs開発の試行錯誤と学び
アイデアが固まった後は、実際にGPTsの開発に取り組みます。
まず最初にGPTビルダーという、プログラミングの知識がなくても対話形式でAIアシスタントを簡単に作成できるOpenAIの対話型ツールを活用しました。その後、実際の業務において使用する際に想定される「指示」「知識」「モデル」などの細かい設定を加えていきました。
GPTs開発を通して、「システムのユーザーと製作者が混じったチーム編成で具体的なニーズが明確になった」「業務を依頼する側と受ける側が一緒に考えることで、より実用的なGPTsができた」といった声が聞かれました。
GPTsの精度を高めるための工夫も様々なチームで展開。「まずプロトタイプを作成し、出力結果を確認しながら調整」「複数の文書形式でテストして精度を検証」「途中でChatGPTの理解度を確認する対話型の設計」など、AIの特性を理解した効果的なアプローチが試みられます。

業務課題を解決するAIソリューションの競演
開発時間の終了を告げるベルとともに、いよいよ各チームの成果発表を開始。各チームのGPTsのデモンストレーションを交え、解決しようとした業務課題とGPTs試作したソリューションについて熱のこもった発表が続きました。
・引き継ぎおまかせGPT
引き継ぎ対象者の特性やバックグラウンドを考慮した最適な引き継ぎ資料を作成
・トレンドとらえ隊
過去の実績データから将来の販売見込みを予測
・年金運用レポート作成支援
市場情報やマーケット動向を整理し、定期報告資料の作成を効率化
・原材料-製品価格チェッカー
原材料価格の変動が製品価格に与える影響を分析
・特許調査支援ツール
調査したい技術概念からキーワードや特許分類を自動抽出
・法規改訂アシスタント
法改正に基づく社内規定改訂の効率化を支援
・決裁権限判断アシスタント
社内規程に基づく決裁権限の確認を効率化
・入社コンシェルジュ
新入社員の初期設定サポートと適切な担当者案内


発表を通じて、単に「AIができること」だけでなく、「AIを業務に活用する具体的な方法」についての理解が深まりました。ハッカソンに初めて参加した多くの社員からは「想像以上にGPTsの作成が簡単であった」というコメントも聞かれ、「スモールステップとして、まずは開発しやすい作業内容にフォーカスする」というアプローチが今後の実践に向け有効な結果を生みました。
創造性と実用性を称えるアイデア重視の評価
参加者は「アイデアの独創性・新しさ」「ビジネスへのインパクト」「実用性・使いたいと思うか」という3つの視点で相互投票を実施。この評価方法自体が、技術的な完成度よりも業務への実質的な貢献度や発想の斬新さを重視する、AI時代の評価方法を表しています。
わずか数時間での開発にもかかわらず、どのチームも実用性と独創性を兼ね備えたソリューションを生み出していたのは、参加者たちの創造力と熱意の表れでした。受賞した上位チームは、「まさか自分たちが受賞できるとは思わなかった」「これを実際の業務でも使ってみたい」などといった喜びの声が聞かれました。

ENEOSマテリアルのAI戦略を推進する市林拓さんに聞く

ENEOSマテリアル
経営管理本部
デジタル統括部 デジタル推進グループ
市林 拓
市林さんはAI活用戦略の中心人物として、ChatGPT Enterprise版の全社導入やGPTsハッカソンの企画・運営を手掛けています。研究開発関連業務に従事し、新エネルギー関連部材・デバイス開発、ポリマー精密加工技術、新規研究テーマ企画・産学連携、そして分子シミュレーション・AI活用まで幅広い経験を持っています。
「研究者の視点からAI活用を考えることで、現場に本当に役立つソリューションが見えてきます」と語る市林さんに、ハッカソンの位置づけとAI戦略について伺いました。
――前回の第1回ハッカソンの成果として、その後も実際に業務で活用されているGPTはありますか?
市林 第1回目のハッカソンをきっかけに、GPTs作成の簡単さ・有効性に気づいたメンバーが、必要なタスクを絞り込んで構築・発展させたGPTsが公開・活用されています。
――参加メンバーも前回と異なりますが、また違った変化はありましたか?
市林 第1回当時はGPTsの認知度が今よりずっと低く、使えるユーザー・部署も限定的でした。その為、まずはGPTsを知ってもらう・試してもらう事を優先しました。今回は、全社展開に続くハンズオン教育的なイベントでありGPTsの認知はある程度得られていました。実際の業務活用にフォーカスする為、業務の関連がある部署ごとにチーム分けを行い、業務に直結したユースケースのアイデア出しを実施して頂きました。チームごとの特色が反映され業務への実践性の高いアイデアが提案されていたと感じています。
――ENEOSマテリアルでGPTを活用していくために、最も重視すべきポイントはありますか?
市林 ChatGPT EnterpriseのENEOSマテリアル全社導入の目的として、「AIを使った業務スピードUPを各現場で実践する」事を掲げています。AIを使った働き方という「明日のあたり前」に、個人レベルだけでなく組織レベルで挑戦する事を重視しています。今後も、各部署の取組みを出来るだけサポートしていきます。
組織全体で取り組むAI活用への展望
今回のハッカソンは、単なる技術体験に留まらず、参加者が実務レベルでAI活用の可能性と限界を理解し、具体的な業務改善のアイデアを形にする貴重な機会となりました。GPTsの開発プロセスを体験したことで、多くの参加者がAIツールの実用性と導入のしやすさを実感したようです。
今回のハッカソンを契機に、ENEOSマテリアル全体でさらにAI活用が促進されることが期待されます。今後もENEOSマテリアルのAI活用の取り組みに注目し、実践的な事例を紹介してまいります。


