安全安定操業、安定供給、競争力強化に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション) への挑戦 ~2024年度ENEOSエネルギー技術会議レポート〈前編〉~

2025.4.2
事業紹介
ENEOS 製造部

 2月に行われた「2024年度ENEOSエネルギー技術会議」の様子や、当日発表されたENEOSの基盤事業の競争力強化 の取り組み、それを実現するための新技術の導入などの詳細を2回に分けてレポートします。前編では会議の概要と、ENEOSがDX(デジタルトランスフォーメーション)の主軸として注力する「デジタルツイン基盤(CDF)」の発表を取り上げます。

この記事の目次

 ENEOS株式会社は2月25日、ENEOS本社(東京都千代田区)で「2024年度ENEOSエネルギー技術会議」を開催しました。

 この会議は社員の技術交流の一環として年1回開催され、製造・物流・販売などの各事業部門における安全安定操業や安定供給、競争力強化に向けた技術の開発・検証・蓄積、さらに管理技術の検証や導入の推進など、広範なテーマについて社員が自発的に取り組んだ成果の発表を行い、社全体としての意識の向上や啓発を図るものです。

山口社長挨拶「発表から勇気と元気を得て新しいアイデア創出へ」

ENEOS株式会社 代表取締役社長 山口 敦治

 会議の冒頭で挨拶に立った山口社長は、「技術の伝承と技術力の向上、デジタル技術の活用とAIによる取り組みの加速は、会社の収益基盤の強化や製油所の安全安定操業、皆さんの業務効率化のため必要不可欠です。カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向けて、省エネや燃料転換による既存事業における温室効果ガス削減に加え、バイオ燃料、水素、合成燃料、ケミカルリサイクルなどにも、世の中の動向や技術開発の見通しに応じて修正を加えつつ、ぶれずに取り組んでいく必要があります」とし、会議での発表に対して、「日頃の取り組みの成果のみならず、苦労して乗り越えてきたハードルを皆で共有し、明日からそれぞれの持ち場での改善活動推進に向けた勇気と元気を得るとともに、具体的な事例の水平展開、あるいは新たなアイデアの創出につなげていただきたい」と期待を寄せました。

8件の研究成果を発表、活発な質疑応答も

 続いて、第1部「新技術・将来像」と第2部「基盤事業の競争力強化(安全安定操業・効率化・省エネ)」に分かれて、「市民開発アプリケーションの展開と各所でのセルフDX良好事例」、「デジタルツイン基盤(CDF)導入による業務改善事例と今後の展開」、「プロセス異常予兆検知(Mtell)展開」、「鹿島地区における廃プラスチックリサイクル事業」、「保全管理アプリの開発・導入による業務効率化、工事品質向上」、「エチレン装置の高付加価値製品へのグレードアップによる生産効率化」、「新規工法の導入によるタンク工程の短縮」、「H2S回収セクションのアミン変更プロジェクト」という計8件の取り組みの成果が発表され、発表後の質疑応答でも活発な議論が行われました。

重要政策と位置付けるDX関連の発表が半数占める

 ENEOSはエネルギー業界のリーディングカンパニーとして「エネルギー・素材の安定供給」と「カーボンニュートラル(CN)社会の実現」の両立に向けた挑戦を長期ビジョンに掲げており、そこに向けて収益の礎を確立し、エネルギートランジションを推進するためにDXの活用と推進を重要な施策と位置付けています。今回の発表でも8件のうち半数の4件を、アプリを含めたデジタル関連のテーマが占めました。本記事では、その中から、「デジタルツイン基盤(CDF)導入による業務改善事例と今後の展開」、「プロセス異常予兆検知(Mtell)展開」、「保全管理アプリの開発・導入による業務効率化、工事品質向上」について、発表の概要をご紹介します。

「デジタルツイン基盤(CDF)導入による業務改善事例と今後の展開」

 ENEOSの製油所では設備の老朽化やエンジニアの世代交代が進み、装置構成が異なるため、製油所ごとに業務プロセスも異なるなど、データシステムは複雑です。製油所の設備の図面や修理・運転の履歴などのデータは紙や個別の電子ファイルで管理されており、エンジニアは「評価や分析に必要となる情報の収集に膨大な時間がかかる」という課題を抱えていました。

 そこで、ENEOSではノルウェー・Cognite社のデータプラットフォーム「Cognite Data Fusion®️CDF)」を活用し、分散していた各種データを1つの仮想空間に集めて一元的に管理する「デジタルツイン基盤」構築に向けた取り組みを行っています。既存システムのデータソースなどから、このCDFのクラウド環境に全てのデータを連携、集約する仕組みです。また、装置機器を中心に、データの関連付け(コンテキスト化)を行うことも可能です。

 「保全履歴や運転データ、装置の稼働状況などさまざまな情報を1つのモニター画面で閲覧可能となり、製油所の全エンジニアが、いつでも、どこでも、必要な情報を把握・利用することができる。CDFを業務の効率化や信頼性向上につながる“エンジニアのコンシェルジュ”として導入を推進していきたい」と、登壇した技術計画部の口ノ町卓耶さん。

ENEOS株式会社 技術計画部 口ノ町 卓耶(左)
ENEOS株式会社 堺製油所 栁 明宏(右)

 将来は蓄積されたデータをAIで分析して製油所の運転の最適化を進め、さらには操業上のトラブルの防止や運転員の知見技術の継承に活用していくことを検討しています。

〈後編〉では、「プロセス異常予兆検知(Mtell)展開」、「保全管理アプリの開発・導入による業務効率化、工事品質向上」の発表を紹介しています。合わせてご覧ください。