ENEOSグループが切り拓く未来:社員一人ひとりが「イキイキと能力を発揮できる」人材戦略
4万人強の社員を抱えるENEOSグループでは、新たな人材戦略に基づいた改革が進行中だ。不確実性が増す事業環境に機動的かつ柔軟に対応する「筋肉質な経営体質」への転換を目指し、「適所適材」のジョブ型タレントマネジメント、安心して誇りを持って働ける企業文化づくりを柱とした人的資本経営への取り組みが行われている。本連載(全3回)では、新しい人材戦略の下で会社と社員の関係はどう変わるのか、どんな人材像が求められるのかなどを、グループ全体の改革を牽引する布野敦子CHRO(最高人事責任者)に聞いた。
第1回:筋肉質な組織を目指すENEOSグループの人的資本経営
人材の価値を最大限に引き出す投資を行い
個々の社員が持つ能力、知見、スキルを
「生産性」に変換させる
――ENEOSグループは今年発表した第4次中期経営計画の中で、人材をどのように位置付けているのでしょうか?
布野 ENEOSグループは理念の実現に向け「『今日のあたり前』を支え、『明日のあたり前』をリードする。」という決意を掲げています。この決意をもって、今と、そして将来の社会に貢献することを目指しています。2040年の長期ビジョンである「『エネルギー・素材の安定供給』と『カーボンニュートラル社会の実現』との両立」や経営戦略はこの理念を実践していくためのものですが、これらを実行するのはやはり「人」です。当社はエネルギー、素材という差別化が非常に難しい製品を扱っており、とりわけ事業環境の変化が激しい昨今、現場で働く人がいかに変化に柔軟に対応しながら計画を実行していくかが極めて重要になります。人の力こそが、グループの競争力の源泉になっていくと考えています。
――2025年5月に発表した今年度から3カ年の新しい経営計画(第4次中期経営計画)の中でも「人的資本経営」への取り組みを掲げていますね。
布野 ENEOSグループは従来も、社員や社外のステークホルダーの皆様に対して「人が最大の資産である」とお話ししてきました。昨今、グループを取り巻く状況は大きく変化しています。これまではビジネスの中心は国内市場であり、また事業環境が比較的安定しておりました。一方、足元はクロスボーダーで目まぐるしく変化する事業環境に対応していかなければなりません。となると、これまで組織としての力で成果を出してきましたが、これからは今まで以上に一人ひとりの社員に付加価値を生み出す働き方をしてもらい、強い個人が集まった集団として世界のマーケットで戦っていく必要があります。新経営計画にも記載されているように、ENEOSグループは、そうした筋肉質な組織づくりを目指して人的資本経営に注力しています。
――ENEOSグループの人的資本経営とはどのようなものですか?
布野 人材は従来「人的資源」と言われてきました。先ほどお話ししたような組織力で勝負していた時は、人材を経営資源の1つとして捉えていたからです。しかし、人的資本経営においては人材を資本と見なし、その価値を最大限に引き出すための投資を行っていきます。資本と言うからには、個々の社員が持つ経験や知見、スキルなどを「生産性」に変換してもらう必要があります。生産性というのは、仕事の質と量のバランスを取りながらパフォーマンスを最大化することですから、個人の価値や得意分野にフォーカスしながら、経営計画の目標が達成できるような人材の育成を進めていきたいと考えています。
――具体的には、どのような人材像を思い描いていますか?
布野 大前提として、一人ひとりの社員には何かしらの分野のプロフェッショナルに、第一人者になってほしいという思いがあります。そこに向けて会社は個人のスキルや経験値を高め、成長につながる機会を提供していきます。そして、それを成果に結び付けられる人材を求めるということです。これまでは会社から与えられたポジションでどう成果を出すかという受け身の考え方で良かったかもしれませんが、今後は「自分の強みを通して目標達成に貢献したい」という能動的な姿勢でキャリア形成に取り組む必要があります。
――グループの人材育成は大きく変わるのですね。そうした中で、CHROが果たす役割はどのようなものですか? CHROは日本語にすると「最高人事責任者」ですが、人事部長とはどう違うのでしょうか?
布野 ENEOSグループは2010年から、持ち株会社の下に主要な事業会社を置くホールディングス体制で事業を進めてきました。この15年間で前述したクロスボーダー化が進み、近年は事業環境の変化も激しくなり、それに伴い社会からの要請も変容してきています。事業の前提が目まぐるしく変わる中でどういう経営をしていくべきかを考えた時に、グループの一体感を強化することで各事業会社の持つ強みを総合的に活用していこうという方向に舵を切りました。グループの一体運営を進めるに当たり、グループ全体の人材戦略を担うのがCHROです。人材は大切な経営資本ですから、個々の能力を最大限に引き出していかにグループの強みや価値の向上につなげていくかを考える非常に重要な職責と受け止めています。人事部長との違いという観点では、もちろん人事部長も人材戦略を考えるわけですが、CHROの方がより経営戦略的な視点で人材戦略を策定し、各事業会社の人事部長やホールディングスの人事部長はCHROの人材戦略に基づいて具体的な施策を決定し推進していくという役割の違いがあるかと思います。

――なるほど。今のお話に出てきたグループの人材戦略とはどういうものですか?
布野 ENEOSグループの「『今日のあたり前』を支え、『明日のあたり前』をリードする。」という理念の実現に向けた決意をもとに、人的資本経営のフレームワーク(上の図)を策定し、グループで共有しています。社会からの要請にお応えして皆様の「あたり前」の生活を維持していくのが当社の使命であり、事業環境が変化する中で世の中のお役に立ち続けるには、当社自体が価値を生み出し、その価値を元手に要請にお応えしていくというサイクルを創出していく必要があります。そこに向けては、一人ひとりの社員が心身ともに健康で、イキイキとして、自分の能力をフルに発揮できるような環境整備が大切になります。そのために今、グループで取り組んでいることが大きく2つあります。1つが、「適所適材」を基本とする効果的な制度の推進。そして、もう1つが安心して誇りを持って働ける企業文化づくりです。前者では、専門性を軸としたジョブ型のタレントマネジメント、さらに、非連続の時代を乗り切るリーダーの育成といったところが軸になります。後者の企業文化づくりでは、健康、働きやすさ、働きがいがキーワードになっています。
――2本柱の人材戦略なのですね。次回以降はこの人材戦略の中身について、詳しくお伺いしていきたいと思います。
■第1回のサマリー
この記事では、ENEOSグループが従来の人材を「経営資源」とする考え方から「経営資本」と捉えて人材投資を積極化する「人的資本経営」へと転換した背景や、それによる新しい人材戦略のフレームワーク、求められる人材像について解説した。さらに、CHROの役割や人事部長との違いについても語っている。次回の記事では、戦略の具体的な内容を紹介する。お楽しみに。


