ENEOSグループが切り拓く未来:社員一人ひとりが「イキイキと能力を発揮できる」人材戦略
4万人強の社員を抱えるENEOSグループでは、今、新たな人材戦略に基づいた改革が進行中だ。不確実性が増す事業環境に機動的かつ柔軟に対応する「筋肉質な経営体質」への転換を目指し、「適所適材」のジョブ型タレントマネジメント、安心して誇りを持って働ける企業文化づくりを柱とした人的資本経営への取り組みが行われている。本連載(全3回)では、新しい人材戦略の下で会社と社員の関係はどう変わるのか、どんな人材像が求められるのかなどを、グループ全体の改革を牽引する布野敦子CHRO(最高人事責任者)に聞いた。
第3回:安心して誇りを持って働ける企業文化づくり
「健康経営」で心身ともに健やかな状態を保ち
「DE&I」で個性を活かす多様な価値観を育み
「承認」によって働きがいを高めていく
――第3回は、安心して誇りを持って働ける企業文化づくりについてお伺いしたいと思います。前回までにリーダー育成やジョブ型タレントマネジメントへの取り組みのお話をお伺いしましたが、制度を変えるだけでは一人ひとりの社員がイキイキと誇りを持って働けるようにはならないように思います。ベースとなる企業文化の醸成についてはどのようにお考えですか?
布野 そうですね。まずは心身ともに安心して働きやすい環境が整備され、社員が理念や長期ビジョンに共感している。そして、一人ひとりの社員が仕事に情熱を持ち、目標達成に向けた自発的な努力を惜しまず、最終的に会社の使命に貢献したいと考えている。さらに、日々の仕事を通して仲間を大切に思い、自分の成長や働きがいを実感し、健康の維持やワークライフマネジメントにより公私ともに充実した毎日を送っている。いろいろ盛りだくさんではありますが、こうした職場環境が実現できると、皆がイキイキと能力を発揮できるようになっていきます。理想の職場環境と今の職場にはどんなギャップがあるのかをエンゲージメントサーベイ等で把握し、そのギャップを埋めるべく、継続的な改善につながるPDCAサイクルを回していくことを前提にさまざまな取り組みを考えています。
――企業文化をつくっていく上で重視しているのはどんなことですか?
布野 イキイキと働くために最も重要なのは、心身ともに「健康」であることです。どんなに恵まれた職場環境であっても、健康でなければ十分に力を発揮できませんし、仕事の楽しさや幸福を感じることも難しくなります。良好なコンディションの下、働いてもらうことが、先ほど来お話ししてきた生産性や創造性、仕事の質や量といったところにも大きく影響してきます。そもそも自分が健康でないと、家族や友人、職場の仲間といった周囲の人たちを大切にしようという気持ちも持ちにくいですよね。皆が健康であってこそ、お互いを思いやり、支え合うことができるわけで、そうした意味でも健康はイキイキと働くための一番の土台であると考え、健康経営に力を入れています。ENEOSグループではこれまでも「健康経営を推進します」というトップメッセージを発信してきましたが、経営戦略の一つとしてグループが健康を重視している姿勢を明確にしようと、改めてトップから健康経営宣言を出しました。とりわけ、健康に悪影響を及ぼすことが多くのデータで示されているたばこ対策には積極的に取り組んでいます。
――なるほど。健康の次に重要な課題は何でしょう?
布野 健康という土台の上に載ってくるのが「働きやすさ」です。快適な環境や良好な人間関係など一般的な働きやすさはもちろんですが、テレワークやフレックスタイムなど、個々の社員のライフスタイルに合わせて、パフォーマンスが最大化できるような働き方の選択肢がたくさんあるのが望ましいと考えています。近年はENEOSグループでも女性社員や経験者採用の社員が増え 、また、外国籍社員や障がいのある社員など、多様な人材の活躍が進んでいます。それぞれの属性に配慮した働きやすさの提供も課題の1つですが、大切なのは一人ひとりの社員の個性をそのまま活かせる、多様な価値観の尊重です。今後はそうした多様な価値観が活かせる企業文化づくりに注力していきたいと考えており、第2回で「黙っていては伝わらないので意見を言ってほしい」と話したのは、その大前提となるからです。
――多様性の尊重が働きやすさにつながっていくわけですね。最後が働きがいですね?
布野 働きやすさと働きがいはよく似た言葉ですが、働きやすさが「個々の社員のライフスタイルや価値観を許容する形で能力を発揮できる環境」を指すのに対し、働きがいは「社員自身の成長実感につながるような環境」を意味します。自分が会社の理念や長期ビジョンの実現に貢献しているという実感も非常に重要ですし、業務上達成したことが組織の中で評価され、フィードバックされ、しっかり処遇もされるというサイクルにより、個々の社員の会社へのエンゲージメントが高まっていくと考えています。そこに向けては、お互いを承認し合うマインドを持つことが大切です。
――健康を土台に、働きやすさ、働きがいへと発展していく企業文化の醸成を目指していらっしゃるわけですね。ちなみに、ENEOSグループの現在地はどの辺りと捉えていらっしゃいますか?
布野 グループでは毎年エンゲージメント調査を行い、ゴールと現状のギャップを見ています。調査結果で特徴的なのは、グループ理念への共感度がベンチマークに比べて高いことです。エネルギーや素材を扱い国民生活を支えているという矜持がしっかり根付いている証左ではないかと分析しています。半面、自分の仕事ぶりが適正に評価されているかという点と、多様性を理解し受容するという点は改善の余地があります。多様性の尊重は誰もが働きやすい職場環境をつくるだけでなく、多様なアイデアや考えの共有が社員の能力を最大限に発揮することにもつながります。そうした意味でもDE&Iの推進は企業価値の向上に資する重要施策と考えており、経営としての考えを「DE&Iコミットメント」という形で改めて整理し、社内外に公表しています。
――実にいろいろな取り組みをなさっているのですね。とはいえ、4万人を超えるグループ社員に人的資本経営を浸透させていくのは容易ではないと思います。布野CHROの決意をお聞かせください。
布野 ENEOSグループにはユニークな技術もありますが、グループの競争力の源泉となるのはやはり人材です。今回はグループの人的資本経営のフレームワークをご紹介してきましたが、それがグループ特有のものかと言えばそうでもなく、今は多くの企業が人的資本経営に取り組んでいます。そうした中で何が他社との違いを生むかと言うと、「やり切る力」、その一言に尽きます。一度決めたことへのコミットメントが強いのはグループの大きな強みだと考えており、人的資本経営についても最後まで愚直にやり切る、仕組みや企業文化に落とし込むまで徹底してやり切る覚悟です。私の役割はその仕組みづくりと、ゴールに向けて大きな推進力を付けていくことです。
――今後に期待しています! 最後に、この記事を読んでくださっている就活生の方にもメッセージをお願いします。
布野 ENEOSグループに興味を持ってくださった方なら、まず、このインタビューの中でも何度かお話ししてきたグループ理念を自分なりにかみ砕き、自分だったらENEOSグループでこんなことをやってみたいという目的を明確にした上でエントリーしていただけると幸いです。というのも、私たちが扱うエネルギーや素材は国民生活の根幹を支えるインフラの1つであり、常に安定供給や安全にコミットしていかなければなりません。グループ理念の中に「あたり前」という言葉が出てきますが、あたり前のことをあたり前に行う裏には、地味で愚直な取り組みがたくさんあります。それは決してキラキラしたものではないかもしれません。けれど、キラキラしていないことをやる価値や意義を感じて、いろいろな企業の選択肢がある中であえてENEOSグループを選んでくださるのだとしたら、その先にはご自分の成長を実現できる、多くの挑戦と発見のある世界が広がっていることはお約束できます。
■第3回サマリー
ENEOSグループは、人的資本経営の基盤づくりとして「安心して誇りを持って働ける企業文化づくり」に注力している。心身の健康を土台に、多様な価値化やライフスタイルを尊重し、最大限パフォーマンスを発揮できる「働きやすさ」を整えるとともに、適切な評価とフィードバックをもって成長実感を高める「働きがい」の向上を目指す。人的資本経営をグループ全体に浸透させるために、決めたことを最後までやり切る覚悟で取り組んでいる。


