ENEOS VOICE 第3回(前編) AIによる業務革新!タンカー輸送の頭脳「原油配船」
ENEOS VOICE 第3回(前編)では、中東から日本へ原油を運ぶ大型タンカーの配船計画が、AIの導入により業務変革が進む舞台裏、AI導入による現場の変化、そして最先端技術が日本のエネルギー基盤をいかに変革しているのかをAIイノベーション部・データサイエンスグループ・チーフスタッフの帯刀 賢太(たてわき けんた)さんがお話しします。
近年、様々な生活の場面でAI(人工知能)の技術に触れる機会が増えています。そこで、ENEOSグループの誰もがAIを活用できるように、2025年6月にENEOSホールディングス株式会社に「AIイノベーション部」が創設されました。この「AIイノベーション部」が推進する3つの先端プロジェクトについて、ニッポン放送の朝の顔、ラジオパーソナリティの上柳昌彦さんによる担当者へのインタビューを全3回シリーズでお届けします。
※「ENEOS VOICE」は、音声でENEOSグループの事業やビジョンなどをお伝えするコンテンツです。文字を読むのはちょっと…という方もお気軽にぜひお聴きください。
この記事の目次

・上柳 昌彦(うえやなぎ まさひこ)さんのプロフィール
1981年4月にニッポン放送入社。1983年から「オールナイトニッポン」月曜2部を3年間担当。さらに、タモリ、笑福亭鶴瓶、テリー伊藤らのアシスタントとして活躍。定年退職後も、ニッポン放送の早朝番組『あさぼらけ』のパーソナリティを務める。他局への出演も増え、局の垣根を超えた “ラジオの人”として活躍中。
・帯刀 賢太(たてわき けんた)さんのプロフィール
1994年生まれ、兵庫県神戸市出身の30歳。2019年、大学院修了後ENEOSに入社し、現在7年目。川崎製油所での勤務を経て中央技術研究所に移り、現在はAIイノベーション部・データサイエンスグループ・チーフスタッフとして活躍中。原油配船計画や洋上風車ケーブル敷設計画の最適化AI等、サプライチェーン効率化や自律型AIの社会実装に従事。
そもそも「原油」はどうやって日本にやってくるのか?

上柳:ENEOSに入られたきっかけをお聞かせください。
帯刀:小さい頃からエネルギーや環境問題に興味を持ち、これらの問題解決に貢献できる仕事に就きたいと考えておりました。日本のエネルギー基盤を支え、次世代エネルギー開発も積極的に行っているENEOSであれば、最前線でエネルギーや環境問題に貢献できると考え入社しました。
上柳:「データサイエンスグループ」ではどのようなお仕事をされているのですか。
帯刀:主にAIを事業に適用するための研究開発業務を担当しております。「最適化」と呼ばれる、複雑な計画業務を高速かつ自動的に立案するAIの開発が主な業務です。具体的には、中東から日本に原油を調達する「原油配船」と呼ばれる計画業務を最適化するAIや、風力発電の洋上風車を建設する際に海底に敷設するケーブルの設置計画を最適化するAIなどを開発しています。
上柳:「原油配船」にAIを活用されていると伺いましたが、そもそも「原油配船」とはどのような業務ですか。
帯刀:「原油配船」とは中東などの産油国から日本に原油を調達する船の運航計画のことです。具体的には、産油国のどの港でどの種類の原油をどれだけ積み、日本のどの港へどれだけ搬入するかといった複雑な計画の策定を行っています。原油にはさまざまな種類があり、ENEOSでは各製油所で生産効率が最大となるように、複数の原油の種類を区別して調達しているため、様々な組み合わせについて試行錯誤しながら計画を立てています。
上柳:日本で使われている石油はどこからどのようにして日本へやってくるのか、その調達ルートを教えてください。
帯刀:主に中東からの購入・搬入が中心です。ENEOSでは海外から原油を運搬する超大型外航船※を月に数十隻、国内転送用の内航船を数隻使用しています。中東のペルシャ湾(アラビア湾)から、オイルロードと呼ばれるインド洋やマラッカ海峡等を通り、日本の約10か所の拠点に片道20日ほどかけて原油を搬入しています。外航船は東京タワー(333m)ほどの長さがあり、4隻で東京ドームを満杯(約124万キロリットル)にできるほどの超大型船です。
※外航船:主に国際航路を航行する船舶⇔内航船
上柳:たとえば、中東から日本へタンカー1隻を動かすのには、どれほどの人数や費用がかかるのでしょうか。
帯刀:船に乗る人数だけで約20名、計画策定業務まで含めますと数十名が携わります。外航船1航海あたり、数億円の費用がかかっています。
上柳:そんなに高額なのですね。
帯刀:はい。外航船は非常に大きいため、運航するための燃料なども膨大に必要です。外航船1隻が1日運航するために必要な燃料は、数万台の自家用車が1日走行するのと同じ量です。省エネの観点からも、無駄のない運航ルートの選定や多種類の原油の積み合わせの工夫が重要となります。
上柳:AI導入以前は、どのように配船を行っていたのでしょうか。
帯刀:以前は供給計画部※の担当者が表計算ソフトを活用し、豊富な経験をもとに配船計画を立案していました。AIの活用により、より精密かつ効率的な配船計画の立案が可能になっています。
※供給計画部:サプライチェーン(SC、供給網)の司令塔で、製品の安定供給と利益最大化を目指し、供給の最適化を担う、日常を支える部門です。
上柳:課題も多かったと伺いましたが、どのような課題があったのでしょうか。
帯刀:代表的な課題は、外航船の取りうる航路―すなわち、どの順序でどの港に立ち寄るかという選択肢の数が膨大で、これは専門用語で「組合せ爆発」と呼ばれます。外航船1隻だけでも数十万通りのルートが考えられ、船コストを最小化する計画が策定できているか不透明でした。さらに、多様な原油の積み合わせを考えると、天文学的な組み合わせ数となるため、効率的な配船計画の策定が非常に困難となっていました。
「原油配船」にAIを取り入れてみたら…


上柳:そこで「AI」の出番となったのですね。まず「原油配船」にどのようにAIを活用されているのですか。
帯刀:AIの中でも高速計算が可能な「数理最適化」技術を活用しています。ユーザーが各原油の購入量や船の数などの前提情報となるデータを用意し、ボタンをクリックするだけで、プログラムで仮想的な世界―中東湾や日本の製油所、船など―を生成します。AIはこの仮想世界の中で、各船がどのように動けば船のコストを最小化し、各製油所が求める原油を調達できるかを自動かつ網羅的に高速計算します。
上柳:AIはどれほどの速さで計算できるのでしょうか。従来と比べて、どのくらいの時間短縮になりましたか。
帯刀:原油配船の計画は毎月策定が必要ですが、1か月につき1日以上の作業短縮と計画の質の向上が実現しています。
上柳:AI活用にあたり、どのようなご苦労がありましたか。
帯刀:現実世界とプログラム上の仮想世界のギャップを埋める作業が最も困難でした。実務上の制約や要件をすべて数式化する必要があり、実証実験を行うと見落としていた制約や要件が発覚することが少なくありませんでした。一つ一つの要件を丹念につぶしながら数式化していく作業には苦労しました。
上柳: AI導入に対する供給計画部の反応はいかがでしたか。
帯刀:供給計画部からは「実際に船のコストが削減でき、製油所が求めている原油を届けられている」と好意的な評価をされています。実務の時間軸でAIを活用し、コスト削減が可能となったことで、大きなやりがいを感じました。

まとめ
ENEOSは原油配船業務の効率化にAIを導入しました。従来、原油を積んだタンカーの配船計画は、寄港地や航行ルートの膨大な組み合わせを人が表計算ソフトと経験を頼りに策定していました。そこでAI技術を活用することで、自動化と効率化を実現。AIが膨大なデータの中から最適な配船計画を短時間で算出し、作業時間やコストも削減できたほか、人手不足対策にも寄与しています。現場担当者にも高い評価を受けており、AIの活用による業務改革が具体的に進んでいるというお話でした。後編では、なぜENEOSは「AI」を積極活用しているのか?など今後の展望についても触れていきます。


