ENEOS VOICE 第1回(前編) AIシミュレーションツール「Matlantis」世界中の企業・研究機関が活用するその内容とは?

2025.12.16
事業紹介
ENEOSホールディングス

 ENEOS VOICE 第1回(前編) は、世界中の100以上の企業・研究機関が活用するAIシミュレーションツール「Matlantis」について、AIイノベーション部・デジタル事業開発グループの大場 優生さんにお話し頂きました。

 生活のいろいろな場面でAI(人工知能)の技術に出会うことが増えてきました。そこで、ENEOSグループの誰もがAIを活用できるよう、2025年6月、ENEOSホールディングス株式会社内に「AIイノベーション部」が誕生しました。この発足したばかりの「AIイノベーション部」が推進する3つの先端プロジェクトについて、ニッポン放送の朝の顔、ラジオパーソナリティの上柳昌彦さんによる担当者へのインタビューを全3回シリーズでお届けします。

※「ENEOS VOICE」は、音声でENEOSの事業やビジョンなどをお伝えするコンテンツです。文字を読むのはちょっと…という方もお気軽にぜひお聴きください。

この記事の目次

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・上柳 昌彦(うえやなぎ まさひこ)さんのプロフィール
19814月にニッポン放送入社。1983年から「オールナイトニッポン」月曜2部を3年間担当。
タモリ、笑福亭鶴瓶、テリー伊藤らのアシスタントとして活躍。定年退職後も、ニッポン放送の早朝番組『あさぼらけ』のパーソナリティを務める。他局への出演も増え、局の垣根を超えた  “ラジオの人として活躍中。

・大場 優生(おおば・ゆうき)さんのプロフィール
ENEOSホールディングス株式会社
AIイノベーション部・デジタル事業開発グループ・デジタル企画チーム チーフスタッフ
1992年生まれ、横浜市立大学の博士課程へ進学し、京都大学の教職を経て、ENEOSに入社
専門は量子化学や量子コンピューターなど。

AIイノベーション部」とは?

上柳:大場さんは大学でどんな研究をされていたのですか?
大場:学生時代は、モノの性質をコンピューターシミュレーションで解明する研究をしていました。本日お話しする材料開発のシミュレーションと同じ分野です。コンピューターを使って、モノがなぜその性質をもつのか、理論と計算によって導き出す研究です。たとえば、リンゴはなぜ赤いのか?水に砂糖を入れると凍る温度はかわるのか?などを理論的に調べる研究をしていました。自分の手で現象のメカニズムを明らかにしていく、その楽しさを知りました。なかでも私の研究は、陽電子やミュオンという、粒子の性質を明らかにすることでした。そして、博士3年生の時に、量子コンピューターという次世代のコンピューターに興味を持ち、最先端の演算機の世界をいち早く探りたくて京都の研究室で研究員になりました。

上柳ENEOSに入社されたきっかけは?
大場:結婚を機に研究室を退職し、新たなワクワクを求めていたところ、研究分野で勢いを見せるENEOS中央技術研究所のことを知り、2024年に入社しました。決め手となったのは、研究員から研究所長までとても話しやすく、技術的な議論にワクワクしたことです。

上柳:さて、そんな大場さんが所属している「AIイノベーション部」は、どんな部署ですか?
大場AIイノベーション部は、中央技術研究所から独立して、20256月に設立されたばかりの新しい部署です。AIイノベーション部には、幅広いデジタル分野において世界をリードできるスペシャリストが集まっています。たとえば、国内最大級の蓄電池の運用や水素事業マネジメントシステムの開発、本日紹介するAIによる最先端の材料開発技術などにも携わっています。
すごいメンバーが集まっていて、私も技術力に圧倒されることが多々あるのですが、フレンドリーで仲が良い雰囲気です。年齢層も若めかなと思いますので、大学の研究室のような勢いとパワーと楽しさがあふれる部署です。

上柳:具体的にはどのようなミッションがあるのですか?
大場AIを開発したり使ったりして、会社を良くしていこう!というのがミッションです。具体的には、社内のさまざまな部門からの相談や依頼に応えたり、AIやデジタル技術を核にした新しい事業を生み出して育てていったり、AIによって現在の仕事のやり方をより良くしていったりしています。

上柳:大場さんが所属するグループ以外にも、色々なグループがあるそうですね?
大場:はい、全部で4つのグループがあります。AI改革グループ、データサイエンスグループ、MI技術グループ、 そしてデジタル事業開発グループ、と担当する専門分野によって分かれています。たとえば、私の所属するデジタル事業開発グループは、その名のとおり、社内のデジタル技術を核にして、事業創出や社内連携、技術開発をする部署です。グループで分かれていますが、グループ間の交流は豊富で、さまざまな専門分野を持つお互いの情報交換も活発なので、自然と自分の知見も広がっていく良い環境だなと感じています。

AIを“特別なこと”から“あたり前”へ

上柳:「AIイノベーション部」が独立したのはどうして?
大場:みんながAIを自然に使えるようになるために、経営に近いところで素早く大胆な判断ができる組織が必要だったからです。ENEOSグループでは、AIを誰もが普通に使える技術にしようとしています。いま多くの人は、自然にパソコンを使えていますよね。でも、30年前はすごく特別でもっと難しいと感じることだったんです。それと同じように、いまAIの活用は特別感がありますが、これから数年で“特別なこと”から“あたり前”に変わっていくと思うのです。ENEOSグループの誰もが、いち早くさまざまなAIを普通に使えるようになるため、私たちは独立した部署を作ることにしました。ENEOSグループの誰もが、いち早くさまざまなAIを普通に使えるようになるため、私たちは独立した部署を作ることにしました。最近は社内からも、これまで以上に『AIイノベーション部、期待してるよ!』という声をいただけるようになり、すごく励みになっています。

上柳AIを使った取り組みが発展することで、具体的にどのような効果が期待されていますか?
大場AI導入によって一番期待できる効果は、業務の効率化とコストの削減です。より速く・より正確に・より確実に、サービスもモノも提供されるようになると考えられます。

上柳:「各部門からの相談、依頼に応える」とおっしゃっていましたが、これまで(中央技術研究所時代)にも、各部門から相談や依頼があったのですか?
大場:はい、製油所、物流、電気、水素、潤滑油まで、本当に様々な部署から相談を受けています。AIでの課題解決や講演依頼などの大きなテーマから、プログラミングの基礎を教えてほしいという身近な要望まで多種多様です。私は、他グループの方から話しかけやすいタイプのようで、私を通してもたくさんの相談をいただいています。

上柳:例えば、イメージ的にはAIから離れていそうな経理や人事といった事務方の部署からも相談があるのですか?
大場:はい。たとえばこれはつい先日私が人事担当より相談を受けた件ですが、ENEOSの中央技術研究所をインターンシップで訪れる大学生に、AIの最先端技術を体験させてほしい、という要望がありました。このときは、大学生にこれからご紹介するMatlantisに触れていただきました。

世界の100以上の企業・研究機関が活用するMatlantisとは

ENEOSグループは、Preferred NetworksというAI企業とともに自前で「AI」を開発しました。それが初回のテーマとなる「Matlantis(マトランティス)」です。

上柳:まず「Matlantis」とは、どんなものですか?
大場Matlantis」は、AIを使って原子レベルのシミュレーションができるツールです。まだ世の中にない材料の性質や組成も、仮想空間の中で高速に予測できます。Matlantisは、ENEOSPreferred NetworksというAI企業が共同開発しました。

上柳:「Matlantis」の名前の由来は何でしょうか?
大場:「Matlantis」という名前は、材料を意味する「マテリアル」と伝説の大陸を意味する「アトランティス」を組み合わせた造語です。 未知の材料が眠る「分子の海」に挑む研究者たちにとって、Matlantisは「羅針盤」のような存在になってほしい、そのような思いが込められています。

上柳:なぜ、「Matlantis」を開発しようと思われたのでしょうか?
大場:今から6年ほど前、Preferred Networks社が持っていた深層学習やニューラルネットワークといったAIの技術を、ENEOSの研究に活かせないかと勉強会を始めたことがきっかけです。石油化学の世界では、触媒の開発が長年難しいテーマだったのですが、AIを活用すれば、もっと早く、もっと賢く進められるんじゃないかと考えたんです。

上柳:小さな原子の振る舞いは、本当にモノの性質に関係するのでしょうか?具体的な例はありますか?
大場:たとえば、生卵を想像してみてください。生卵は火を通して温度を上げると固まりますよね?でも冷蔵庫に入れて温度を下げても元には戻らない。よく考えたら不思議だと思いませんか?これは原子の振る舞いを調べるとわかります。卵の中にあるタンパク質の結合が熱で壊れて、原子の構造が変わってしまうから冷やしても元に戻らないのです。このようなとても小さくて目に見えない“原子の世界”で起きる現象が、身の回りのモノの性質を決めているとは、不思議ですよね

上柳:原子の世界を顕微鏡で覗くのではなく、Matlantisで瞬時に判断できるようになるということですね。
大場:その通りです。

上柳:最初に「Matlantis」を使った際は、どのような驚きがありましたか?
大場:何と言っても、計算の速さです。従来の方法とほぼ同じ精度で、何万倍ものスピードで結果が出たため、実際に使った利用者からは「これは革命だ!」という声もいただいています。

上柳:現在、私たちが「Matlantis」で開発されたり、作られたものを目にしたりする機会はありますか?
大場:まだ日常生活で「これがMatlantisで作られた!」とはっきりわかるものは少ないですが、研究所では潤滑油の添加剤や触媒の開発など、様々な目的で利用されていて、より高機能でコストパフォーマンスの良い製品開発につながっています。ENEOSグループ以外でも、日本を中心に、世界中の100以上の企業や研究機関に活用いただいており、製品の改良にもすでに使われ始めていると思います。たとえば、花王さんやクラレさん、トヨタさんなども使ってくださっていて、具体的な製品に反映されている例もあるかもしれません。

▼後編では、上柳さん実際にMatlantisを使っていただき、研究開発が何万倍にもなった計算速度の「速さ」と、初めての人でも容易に使用可能な「手軽さ」を体験していただきます。

 株式会社MatlantisのHPはこちら