ENEOS VOICE 第2回(前編) AIで需給バランスを最適化する未来のエネルギー運用!「EMS」とは?

2025.12.18
事業紹介
ENEOSホールディングス

 ENEOS VOICE 第2回(後編) は、AIを活用した蓄電池運用最適化への取り組み、北海道室蘭での実証事例や開発の背景の他、エネルギー管理の未来について、AIイノベーション部・デジタル事業開発グループの有賀 暢幸さんにお話を聞きました。

 近年、様々な生活の様々な場面でAI(人工知能)の技術に触れる機会が増えています。そこで、ENEOSグループの誰もがAIを活用できるよう、20256月、ENEOSホールディングス株式会社内に「AIイノベーション部」が創設されました。この「AIイノベーション部」が推進する3つの先端プロジェクトについて、ニッポン放送の朝の顔、ラジオパーソナリティの上柳昌彦さんによる担当者へのインタビュー全3回シリーズでお届けします。

※「ENEOS VOICE」は、音声でENEOSの事業やビジョンなどをお伝えするコンテンツです。文字を読むのはちょっと…という方もお気軽にぜひお聴きください。

この記事の目次

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・上柳 昌彦(うえやなぎ まさひこ)さんのプロフィール
19814月にニッポン放送入社。1983年から「オールナイトニッポン」月曜2部を3年間担当。タモリ、笑福亭鶴瓶、テリー伊藤らのアシスタントとして活躍。定年退職後も、ニッポン放送の早朝番組『あさぼらけ』のパーソナリティを務める。他局への出演も増え、局の垣根を超えた  “ラジオの人として活躍中。

・有賀 暢幸(あるが・のぶゆき)さんのプロフィール
1990年生まれ、東京都出身の35歳。大手電機メーカー・大手自動車メーカーを経て2021ENEOSに入社。ENEOSホールディングスAIイノベーション部 デジタル事業開発グループ シニアスタッフ、電力領域チームのリーダーとして、「EMS蓄電池運用計画最適化システム」や「電力×AI×内製プロダクト開発」を中心に、自社開発ソフト・水素EMS・電気事業リスク管理システムなどの企画、運用、開発などを担当。

ENEOSがなぜ「蓄電池」なのか?

上柳2つの大きな会社を渡って来られていますが、これまでどのような職務を経験されましたか。
有賀:大手電機メーカーでは、主に電力需給管理システムのソフトウェア開発を担当していました。電気の「使う量」と「作る量」を常に一致させる仕組みを実現するシステム作りに携わっていました。その後、自動車メーカーへ転職し、電気自動車・ハイブリッド車向けエネルギーマネジメントソフトウェアの開発を担当しました。「いつエンジンを動かすか」「どのくらい電気を使うか」といった車の頭脳部分の制御構築を担当していました。

上柳:エネルギーマネジメントシステムとは、どのようなものでしょうか。
有賀:エネルギーマネジメントシステム(Energy Management System)は、今回のテーマとなります。EMSと略しますが、電力やエネルギーの使用状況に応じて効率よく運転計画を立て、その通りに機器を制御する仕組みです。後ほど詳しくご説明いたします。

上柳ENEOSに入社されたきっかけは、何だったのでしょうか。
有賀:石油・電力・ガスなど幅広いエネルギーを扱う事業の中で、将来世代のために持続可能な社会を築いていたいと思いました。自分の強みであるエネルギーマネジメントシステム開発をさらに進化させ、社会に貢献したいと考え、2021年に中途入社しました。

上柳ENEOSではこれまで、どのような業務を担当されたのでしょうか。
有賀:入社当初は「効率的な水素製造を支援するソフトウェア」の開発を担当しました。これは水素ステーションに設置した水素製造装置を効率的に運転するための制御システムです。その後、蓄電池事業に欠かせない「収益性試算ツール」の開発も担当しました。蓄電池運用による利益を事前にシミュレーションする仕組みで、事業の採算性判断に重要な役割を果たしています。また、この開発をベースに、実際の蓄電池の運用を目的とした「蓄電池運用最適化システム」の開発にも取り組みました。さらに、電力事業リスク管理システムやEVの充放電管理システムなど、さまざまな案件にも関わっています。振り返ると、多方面のエネルギーマネジメントシステムの開発経験を積み、大きなやりがいをもって取り組んできました。

上柳ENEOSは石油会社のイメージが強いと感じますが、AIイノベーション部には「電力領域チーム」もあるのでしょうか。
有賀ENEOSは「石油会社」というイメージが強いかもしれませんが、エネルギーや素材の安定供給、カーボンニュートラル社会の実現を目指して様々な挑戦を続けており、水素や再生可能エネルギー、電力など、時代の要請に応じて事業領域を進化させています。この中で、電力領域チームではデジタル技術を活用して、電力事業の高度化と新たな価値創出に取り組んでいます。

上柳:電力領域チームでは、具体的にどのような業務を担っているのでしょうか。
有賀:当チームでは、「電力×AI×内製プロダクト開発」を軸に、社内の関連する事業部へのサービス提供を中心に取り組んでいます。具体的には、電気事業を支援する予測・最適化ソフトウェアや、前述の水素EMS、電気事業リスク管理システムなどの企画・運用・開発を推進しています。

※内製プロダクト開発:自社でソフトウェアを開発し、サービスとして顧客に提供する取り組みです。

「EMS(エネルギー・マネジメントシステム)」とは

上柳:「EMS蓄電池運用計画最適化システム」とは「電気需要と供給のバランスを見ながら効率的に制御するシステム」と認識して良いでしょうか。
有賀:おっしゃる通りです。蓄電池運用計画最適化システムでは、「電気やエネルギーを効率よく運用するための計画作成」に力を入れて開発しています。

上柳:そもそも、なぜEMSのような技術が必要とされているのでしょうか。
有賀:電気は石油やガスなどと違い、大量に蓄えることが難しいエネルギーです。そのため、作る量と使う量を一致させることが必要で、バランスが崩れると停電したり、余った電力が無駄になったりする恐れがあります。再生可能エネルギーの普及により、天候や時間帯の違いで発電量が大きく変動するため、需給バランス維持の重要性はますます高まっています。こうした状況下で、ENEOSグループではAI技術を活用したEMSの開発・運用により、電力需給の状況や、電力市場のトレンド、制度の複雑な変化にも対応しながら、需給バランスの維持に貢献することを目指しています。EMSは安定供給と収益最大化を両立する、将来のエネルギー社会に不可欠な技術だと考えています。

上柳EMSには具体的にどのような形でAI技術が活用されているのですか。
有賀:発電量や市場価格予測には、機械学習を活用したAIを実装しています。こうした予測情報を基に、数理最適化技術を利用して蓄電池運用計画を決定します。またプログラム作成や検証などの開発フェーズには、生成AIを活用することで開発のスピードや品質の向上を図っています。

上柳AIはどれくらい電気を作るか、どの程度蓄えるかも適切に判断してくれるのでしょうか。
有賀:その通りです。

上柳:予測情報とは、具体的にはどんなものになるのでしょうか。
有賀:例えば電力使用量予測があります。一般的には天候や気温、天気予報といった情報、また月日や曜日などのデータも組み合わせて使用量を予測します。さらに、電力需要は生活パターンと深く関わっているため、「ワールドカップ決勝がある夜は普段と違う使われ方になる」「クールビズの開始で冷房利用が控えめになり使用量が下がる」など、様々な事象が生じます。高精度な使用量予測により、供給側でも適切な対応が可能になり、これは業界全体でも重要です。

上柳EMSは主にどのような場所で活用されているのでしょうか。
有賀:北海道に所在する室蘭蓄電所が主要な利用拠点です。他にも神奈川県の根岸製油所に設置されている蓄電池でも本システムを使っています。

上柳:なぜ「室蘭」なのでしょうか。
有賀ENEOSは以前、室蘭で製油所を運営していました。その跡地を再活用したことや元製油所だった関係で電力系統への接続がしやすかったこと、加えて北海道で再生可能エネルギーの普及が期待されていたことが主な理由です。

※電力系統:発電所で作られた電気を家庭や工場まで届けるための“電気の道路”のようなもので、送電線や変電所などのインフラ全体を指し、専門的に電力系統と呼ばれます。

上柳:室蘭蓄電所では、どのくらいの電力を蓄えることが可能なのでしょうか。
有賀:貯蔵できる量は8.8kWh88MWh)です。満充電時には9000世帯の1日分の電力を蓄えることができます。

まとめ

EMS(エネルギーマネジメントシステム)は、電気の需給バランスを見ながら効率よく制御するための仕組みです。ENEOSではAI技術も活用し、複雑な電力市場への対応を進めています。EMSは安定供給と収益最大化を支え、電力需給バランス維持にも欠かせない仕組みです。本システムにより電力の運用効率化が進み、新たな価値づくりにも役立っていることがわかりました。

後編では、「EMS蓄電池運用計画最適化システム」の開発背景や省エネ技術の必要性について、さらに詳細をご紹介します。加えて、大型蓄電池の役割、蓄電池の利用状況まで深掘りし、再生可能エネルギー普及の課題やその解決策も探っていきます。今後の展望やENEOSグループの取り組みにも、引き続きご注目いただきたいと思います。