ENEOS VOICE 第2回(後編) AIで需給バランスを最適化する未来のエネルギー運用!「EMS」とは?
ENEOS VOICE 第2回(前編) は、EMS蓄電池運用計画最適化システムの開発秘話や、大型蓄電池を活用した新たなエネルギー管理戦略の他、再生可能エネルギー普及に向けた今後の課題をAIイノベーション部・デジタル事業開発グループの有賀 暢幸さんにお話しを聞きました。
近年、様々な生活の様々な場面でAI(人工知能)の技術に触れる機会が増えています。そこで、ENEOSグループの誰もがAIを活用できるよう、2025年6月、ENEOSホールディングス株式会社内に「AIイノベーション部」が創設されました。この「AIイノベーション部」が推進する3つの先端プロジェクトについて、ニッポン放送の朝の顔、ラジオパーソナリティの上柳昌彦さんによる担当者へのインタビュー全3回シリーズでお届けします。
※「ENEOS VOICE」は、音声でENEOSの事業やビジョンなどをお伝えするコンテンツです。文字を読むのはちょっと…という方もお気軽にぜひお聴きください。
この記事の目次

「EMS」開発秘話
上柳:電力やエネルギーの使用状況を監視、制御、最適化するシステムである「EMS」を開発した背景を教えてください。
有賀:EMSを開発したのは、将来の電力市場価格の予測が難しく不確実性が高いこと、さらに市場設計が複雑で「どの市場で・いつ・どれだけ売買するか」という計画立案が高度化していることが理由です。加えて、電力業界では制度変更が頻繁に行われ、運用への迅速な反映が求められます。こうした環境においては、外部へ依存せず、短いサイクルで改善を重ねられる体制が不可欠であると判断し、当社自らEMSを内製することにしました。
上柳:なぜ、ENEOSが「大型蓄電池」を必要とするようになったのでしょうか?
有賀:ENEOSが「大型蓄電池」の運用事業に参入した理由はいくつかあります。まず、法律や制度が整い、電力の需給調整に当社も参入できるようになったこと。また、太陽光や風力発電が増えたことにより、電力の供給と需要のバランスを取るための蓄電池のニーズが高まったこと。そして、蓄電池のコストが下がり、政府の支援策も拡充され、電力の取引市場でのチャンスを生かすことが現実的になってきたこと。当社が長年電気事業を営んでおり、事業運営能力があったこと。このような理由から、ENEOSは大型蓄電池を導入する判断をしました。
上柳:とはいえ、自前で「EMS」を開発する上では、ご苦労も大きかったでしょう?
有賀:そうですね。いちばんの苦労は、極めて短い開発期間でした。約2年前の2023年4月に開発方針を決定した当時、蓄電池の最適制御については知見を蓄積していた一方、需給調整市場への具体的な対応方針は固まっていませんでした。8月頃まで大きな前進がない状況でしたが、当時のリーダーと「本格的に着手しましょう」と意思統一を図り、ホワイトボードで要件とアプローチを洗い出しました。手間と時間はかかりましたが、数週間でアルゴリズムのプロトタイプを完成させました。そこから短いサイクルで実装と検証を繰り返すことで、着実に完成度を高めることができました。プロトタイプが洗練されていく過程は私自身にとっても大きな手応えがあり、「楽しみながら進めることができた」点が成功の要因だと考えています。
上柳:「EMS」システムによって、私たちの生活にはもうメリットがもたらされていますか?
有賀:現時点では、今回の取り組み自体が私たちの生活の中で直接感じられるようなメリットをもたらしているわけではありませんが、事業には確かな貢献をしております。太陽光や風力などの再生可能エネルギーには発電が安定しにくいという課題がありますが、EMSと※VPP技術を活用することで、蓄電池などの分散エネルギー資源によって出力変動を補い、需給を適切に調整することが可能です。こうした取り組みを通じて再生可能エネルギーの普及が進み、環境負荷の低減や持続可能な社会の実現に寄与していくと考えております。
※VPP(Virtual Power Plant)は、電源・蓄電設備や需要家(電気を使う側)を束ねて発電所のように制御する仕組み。電力不足時には多くの需要家に使用抑制を調整する仕組みも含む。
上柳:再生可能エネルギーを取り巻く環境には、どんな課題がありますか?
有賀:再生可能エネルギーを取り巻く最大の課題は、コストの課題はもちろんですが、普及に伴って必要となる系統の安定性への対策がまだ十分ではないことです。その解決策として、大型蓄電池をはじめとする電力貯蔵設備の拡充と、電力系統を安定的に保つための調整力の確保が重要です。ENEOSでは、室蘭市に出力50MWの蓄電池プラントを稼働させているほか、千葉県でも新たな蓄電池プラントを建設中です。加えて、小型のエネルギー資源を統合制御するための、各種実証実験にも取り組んでおります。これらの取り組みを通じて、再生可能エネルギーのさらなる普及と系統の安定運用の両立に貢献してまいります。
上柳:有賀さんご自身としては、今後、どのようなことをやっていきたいですか?
有賀:部としても個人としても再生可能エネルギーの普及は非常に大切だと考えています。私自身、子どもの時からモノづくりが好きでした。社会に向けたモノづくり(コトづくり)という視点でEMSをはじめとしたソフトウェア技術を活用して持続可能な社会に貢献していきたいと考えています。
まとめ&次回予告
ENEOSは、EMS蓄電池運用計画最適化システムを内製することで、電力市場の高度な計画立案と頻繁な制度変更に迅速に対応する体制を整えました。大型蓄電池の導入により再生可能エネルギーの供給と需給バランスの安定化を図り、持続可能なエネルギー社会の実現を目指しています。
次回は、『原油配船とAI』に注目します。ENEOSグループのAIイノベーション部における革新性を更に紐解き、AI活用がもたらす配船の効率化と石油業界全体への影響、供給の安定性を高める戦略を解説します。ENEOSが描く持続可能な未来の姿をぜひ続けてご購読ください。


