ENEOSグループが切り拓く未来:社員一人ひとりが「イキイキと能力を発揮できる」人材戦略
4万人強の社員を抱えるENEOSグループでは、今、新たな人材戦略に基づいた改革が進行中だ。不確実性が増す事業環境に機動的かつ柔軟に対応する「筋肉質な経営体質」への転換を目指し、「適所適材」のジョブ型タレントマネジメント、安心して誇りを持って働ける企業文化づくりを柱とした人的資本経営への取り組みが行われている。本連載(全3回)では、新しい人材戦略の下で会社と社員の関係はどう変わるのか、どんな人材像が求められるのかなどを、グループ全体の改革を牽引する布野敦子CHRO(最高人事責任者)に聞いた。
第2回:戦略実現に必要な全ポストに最適人材をマッチング
「適所適材」で能力を発揮させる
ジョブ型タレントマネジメントと、
リーダー像を明確にした上での育成フロー
――ENEOSグループが目指す社員や会社のあり方、社員と会社の関係性は、どのようなものなのでしょうか?
布野 ENEOSグループ全体では、今、4万人強の社員が在籍しています。皆、何かしらの理由を持ってENEOSグループに入社してくれたのだと思いますが、「会社に何を期待するか」というところが、これまでは明確にされていませんでした。生活のために給料を得るだけでなく、働きがいや自分自身の成長を期待して他社ではなくENEOSグループを選んでくれた人も多いはずです。会社としては、そうした社員にイキイキと能力を発揮できる機会や環境を提供していきたいと考えています。社員にはそこでしっかり成果を出してほしい。強調しておきたいのは、会社と社員はお互いに価値を提供し合う間柄であり、「選び選ばれる」極めて対等な関係だということです。
――「適材適所」ではなく、「適所適材」なのですね? どのように違うのですか?
布野 「適材適所」というのは人材を業務に当てはめていくという考え方だと思いますが、ENEOSグループではまず会社側が理念や経営戦略を実現していくために必要な業務や、その業務に求められる要件を定義し、それを実現できる人材とマッチングさせていく形になります。ですから、あえて「適所適材」という新しい言葉を使いました。こうした適所適材型の人材活用の鍵を握るのが専門性です。そこで、個々の社員が持つ経験や知見、スキルなどを活かすジョブ型タレントマネジメントを導入しました。こうした取り組みによって、理念や経営戦略の実現に必要な全てのポジションが、能力を最大限に発揮できる人材によってサポートされるようになります。
――ENEOSグループの社員にとっては、どんなメリットがあるのでしょうか?
布野 新制度では、社員のキャリアに関して3つの「見える化」を行います。1つは、先ほどお話しした必要な業務(ポスト)、そして2つ目が個々の社員のスキルや経験、知見です。この2つが分かると、自分の行きたいゴールと現在の立ち位置とのギャップが明確になりますから、それを埋めるためのキャリアパスも提示します。この3つの見える化により、グループの社員は自分のスキルや得意分野を踏まえて社内のキャリアゴールやキャリアパスを自ら選択し、上司と相談しながら会社の研修制度などを使って自分の価値を高めていくことが可能になります。
――リーダーの育成については、どのようにお考えなのでしょうか?
布野 リーダー層になった人材の経験やスキル、さらにリーダーに求められる要件というのも明確になっていなかったので、2024年度にまず、役員層から着手しました。経営というのは1人ではなくチームで行うものですから、チームの力というところも見える化でき、チームの選抜や、チームの力を最大化できるリーダーを育成することの重要性を改めて感じた次第です。2025年度にはこれをより体系的に行っていこうと管理職以上の人材のリーダーシップを見える化し、各事業会社レベルから始めて最終的にはホールディングスで将来を担うリーダーの選抜・育成について議論する仕組みをつくり、稼働させています。これまでは、リーダーの選抜基準が曖昧な部分もありましたが、今後は透明性、客観性のあるグループ共通の物差しでリーダーを選び、尋ねられたら合理的な説明ができるようにしていきたいと思います。ただし、リーダーの基準は一律でなく、時代に応じて変わります。事業環境が安定している時と今のように変化が激しい時では求められるリーダー像は当然異なりますし、同じ環境下でも、正確なオペレーションが要求されるタスクと未知の世界に切り込んでいくタスクでも違ってきます。こうしたリーダー像の定義も明確にした上で見える化を進めていきたいと考えています。
――キャリア形成やリーダー選抜の仕組みが大きく変わる中で、グループの社員の方々にはどんな変化を期待していますか?
布野 社員にまずお願いしたいのは、グループの理念、社会に対する存在意義を、自分の仕事と結び付けて考えてほしいということです。ここまでご説明してきたように、理念を実現するために経営戦略を策定し、その経営戦略を実現していくのが人です。個々の社員が会社の使命を自分ごととしてしっかり認識しておく必要があります。もう1つが、会社と社員は対等な関係で互いの価値を高め合っていくわけですから、社員は会社が提供する機会を有効に活用して自分の能力を最大限に発揮してほしい。また、黙っていては何も伝わらないので、上下関係なく意見は明確に伝え、健全な議論を通してより良い仕事をしていくという考え方を徹底したいと思います。端的に言うなら、当事者意識を持ち、自分の価値を高めることに貪欲な人材になってほしいですね。
――コミュニケーションの重要性を指摘されていましたが、ご自身はCHROとして社員の方々とどんな対話をしていきたいと考えていらっしゃいますか?
布野 第1回でCHROというのはグループの人材戦略を考えるのが仕事と言いましたが、現場を知らないと効果的な戦略は生まれていきませんから、積極的に、より多くの社員と対話していきたいですね。人材戦略についても、社員からは多様な意見が出てきそうです。完全に意見の一致を見ることは難しいかもしれませんが、お互いが言うべきことを言い合い、健全な議論を進めていく。そういう機会をたくさん持てたらいいなと思います。
―― ありがとうございます。次回はグループの企業文化づくりのお話を伺っていきたいと思います。
■第2回のサマリー
この記事では、ENEOSグループが「会社と社員は互いに選び選ばれる対等な関係」を目指しており、会社は社員にジョブ型タレントマネジメントを通して成長の機会を提供し、社員はそれを活用してキャリアを高めて社業に貢献するという両者の役割分担に言及した。さらに、リーダー選抜の仕組みの変化にも触れている。次回の記事では安心して誇りを持って働ける企業文化づくりの中身に迫る。お楽しみに。


