ENEOSが切り拓く未来:グループ横断の高度なプロジェクト&調達マネジメント

ENEOSグループは、非連続な事業環境に柔軟に対応できる筋肉質な経営体質への転換を目指し、投資効率の改善を急いでいる。大規模なエネルギープラントなどへの投資を加速させているが、こうしたプロジェクトの採算性を厳格に検証し、効率の低い案件を見直す。本連載(全3回)では、プロジェクト管理や調達の旗振り役を務める染谷喜幸CPPO(最高プロジェクト・調達責任者)に、プロジェクトのゲートシステムや調達ネットワークなど、グループを横断した管理の高度化について聞いた。
第1回:ENEOSグループの投資効率改善への取り組み
効率の低いプロジェクトを減らし
戦略的調達の実現により
競争力を高めていく
――CPPOという役職名は珍しいですよね?ENEOSグループでどのような役割を担っていらっしゃるのですか?
染谷 チーフプロダクトオフィサー(最高製品責任者)、チーフプロジェクトオフィサー(最高プロジェクト責任者)、あるいはチーフプロキュアメントオフィサー(最高調達責任者)といったCPOは最近増えていますが、CPPOは確かにあまり聞いたことがありません。私はチーフプロジェクトオフィサーとチーフプロキュアメントオフィサーの両方を兼ねたCPPO(最高プロジェクト・調達責任者)です。現在、ENEOSグループの中に主要事業会社が5社ありますが、プロジェクトや調達については各社が独自で管理しており、そこに横ぐしを刺すように共通の基準を導入して、さらにグループとしてのシナジーが出せるような体制を創出していくのが私の役割です。ENEOSグループの場合はそれぞれの会社が極めて専門性の高い事業を行っていますので、そうした中から、各社がもともと持っている優れた部分を活かしながら、グループとしての最適化を図っていけたらと考えています。
――染谷CPPOは2024年8月にグループの初代CPPOに就任されています。ENEOSグループがCPPOというCxOを新たに置いた狙いはどんなところにあるのでしょうか?
染谷 ENEOSグループの過去のプロジェクトを精査すると、減損があったり、IRR(内部収益率)が計画より低かったりといった効率の低い案件が散見されました。グループ全体でのプロジェクトへの投資額は莫大なものになりますから、そこを早急に改善していかないとグループの競争力を強化できません。ENEOSホールディングス社長の宮田もグループの投資効率の改善を明言しており、その命を受けて私がこの職に就いているわけです。
――プロジェクト管理とは、具体的にどのようなことをなさっているのでしょうか?
染谷 プロジェクトとは、簡単に言えば、特定の目的のために資金や人材、土地などのリソースを投入し、期日までに目標を達成する活動を指します。ENEOSグループの中で私が担当しているのは、主に設備投資のプロジェクトです。ENEOSやENEOSマテリアルは製油所や工場等の装置を改造して製品の生産力を高めるプロジェクト、ENEOS XploraはLNG(液化天然ガス)を開発するプロジェクト、ENEOS Powerは発電所を建設するプロジェクト、ENEOSリニューアブル・エナジーは太陽光や風力など再生可能エネルギーの発電設備を建設するプロジェクトなどがあります。M&A案件にもプロジェクト管理の観点から審査をする立場として参加しています。プロジェクトは規模が大きくなるほど、製品価格や数量、収益性といった計画時の前提条件が変化するものです。さらに、メンテナンスやオペレーション、安全性などの見地から、当初の想定を見直さなければならないこともあります。時の経過とともに状況が変わっていく中で、計画通りの予算やスケジュールで収めなければならないのがプロジェクトの難しいところです。しかし、予算やスケジュールの管理がしっかりできていないと、当初決めたことから目標がずれてしまって軌道修正が必要になったり、先ほどお話ししたような投資効率の低いプロジェクトが増えてきたりします。そうならないように管理していくのが私たちのミッションであり、そのルールを定めたのがプロジェクトのマネジメントシステムであり、ゲートシステムであるのです。
――ENEOSグループ全体で見れば、進行中のプロジェクトの数も相当なものになりますよね? 案件ごとの予算規模はどれくらいなのでしょうか?
染谷 プロジェクトの中には計画を立てて最後まで行くものもあれば、途中でやめるものもあります。初期段階のものもカウントしたら、グループ全体での件数はかなりのものになります。その中で私がホールディングスのCPPOとして直接関わるのは100億円以上のプロジェクトです。もちろん、100億円未満のプロジェクトにおいても、金額に応じてENEOSグループとして適切にガバナンスが機能していることを確認しています。
――調達責任者としてのお仕事についても教えてください。
染谷 調達という言葉から皆さんが想像するのは、「原材料や備品を購入する」、「支払い処理をする」といったことではないかと思います。しかし、調達をうまく管理していかないと、グループの収益にも影響が出てしまいます。調達はお金が出ていくプロセスですから、良いものを適正価格で買う、最適化した形で買うことが社業への貢献につながるのです。例えば100億円の利益を確保するより、調達をうまくやり繰りして100億円のコストを削減する方がはるかに難易度は低い。こうした観点から、調達の最適化は会社の競争力を高める戦略的な要素にもなると考えています。とはいえ、安かろう悪かろうでトラブルが発生すると却って高い買い物になってしまいます。製品やサービスの質を担保しながらいかに適正価格で買うかが肝要です。仕様や買い方によっても価格は変わってきます。ですから、調達の責任者として、仕様の最適化や、入札ができるのなら活用するといった調達環境の最適化のサポートをしています。高額購入の場合は調達計画を策定して、事業部門と相談しながら決めていく形になります。長い目で見てサステナブルで安定した調達ができるよう、サプライヤーの皆様ともWin-Winの関係性を構築するよう努めています。
――CPPOの業務を遂行する上で心掛けていることはありますか?
染谷 プロジェクトは多くの人が関わることによって成立するものなので、関係者同士のコミュニケーションが極めて重要です。プロジェクトはよく、航海にたとえられます。全員がワンチームとして同じ方向を向いている必要があるからです。プロジェクトでは、最初にプロジェクトプランを策定するのですが、それを共通認識として、皆で一丸となって目標に向かっていくようなアライアンスの構築に心を砕いています。
――予算やスケジュールだけでなく、良好なコミュニケーションを保っていくこともプロジェクトを管理していく上では重要なのですね。次回はプロジェクトの進め方やガバナンスなどについて、お伺いしていきます。
■第1回のサマリー
この記事では、ENEOSグループの新しいCxO、CPPO(最高プロジェクト・調達責任者)が誕生した背景と、CPPOの果たす役割について解説した。さらに、プロジェクト管理とはどういうものか、調達業務の重要性についても言及している。次回の記事では、プロジェクトや調達マネジメントの具体的な内容について紹介していく。お楽しみに。
→第2回に続く