ENEOSグループは社会の「今日のあたり前」を担うエネルギー業界のリーディングカンパニーとしてデジタルツールの安定的な運用を目指しています。そのような中、「守り」だけでなく、DXに代表される「攻め」のデジタル活用にも積極的に取り組みを進めています。それは、ITやAIによる業務の自動化・省力化や、現場担当者が自らアプリを開発する「市民開発」などを通じたDXの促進です。2025年度には大分製油所がデジタル推進部の協力を得て「OITA効率化コミュニティ」を設置、2026年1月末までに51件の業務効率化ツールの開発に成功しました。同コミュニティのリーダーを務める環境安全グループの小野拓也さんと、現地派遣を含めた1年間の伴走支援を行ったデジタル推進部の南帆乃香さんに、取り組みの背景や進め方などについて話を聞きました。激動の1年を振り返り、盛り上がった対談の内容を前後編に分けてご紹介します。
南帆乃香さん(以下、南):デジタル推進部では、ENEOSグループのDX推進に向けた取り組みの1つとして「市民開発」の支援に力を入れています。日常業務の非効率性解消を目指して開発したツールを他の社員にも展開できる「市民開発ツール広場」の運営をはじめ、関連する広報活動やガイドラインの策定、Power Platformの操作を中心とした研修の実施など、各種の施策を推進してきました。
Power Platformは、Microsoftが提供する業務改善のためのデジタルツール群です。専門的なプログラミング知識がなくても、画面操作を中心に、業務で利用する簡単なアプリの作成や定型作業の自動化、データの整理・見える化などを実現できます。例えば、紙やExcelで管理していた申請・点検・集計などの作業をデジタル化し、現場の業務に合わせた仕組みを社員自ら構築できる点が特長です。
全社的に取り組みやすい環境を整備したことで、以前に比べて「市民開発」に対する関心や理解が格段に高まっていると感じています。さて、OITA効率化コミュニティのきっかけを作ったのは小野さんなのでしょうか。
小野拓也さん(以下、小野):はい、そうです。2024年度までは大分製油所の製油技術グループに所属しており、「市民開発」に触れる機会がありました。そこで、これを多くの社員が使いこなせるようになれば、業務の効率化が大きく進むのではないかと思ったことがきっかけです。
そこで、経営幹部による年次視察の機会に、当時IT部門を所掌されていた椎名秀樹元副社長に対し、「IT戦略部(現:デジタル推進部)と協働して製油所内に「市民開発」を大々的に取り入れたら面白いことができると思います」とプレゼンをしました。驚いたのは、その2カ月後にIT戦略部の部長、副部長、グループマネージャーが大分に来てくれたことです。
南:椎名さんに「大変興味深い取り組みになると思う」という助言をいただき、当部としても現場のDX推進とIT人材育成につながる施策になるという期待感から、大分製油所への要員派遣を含めた形で協力を決めたと聞いています。
派遣される私自身にとっても、「市民開発」のスキルを現場で生かせるだけでなく、製油所の業務を理解しながら開発を進める実践的な学びの機会になると前向きに捉えました。開発にあたっては、将来的な横展開も見据え、全社的に活用しやすいPower Platformを採用するなど、具体的な進め方については大分製油所と一緒に詰めていきました。
小野:コミュニティのメンバー選定に当たり、大分製油所の幹部と各部門のグループマネージャーに「各部署から2~3名をキーマンとして選出してください」とお願いしました。各部署に代表者がいないと、該当部署の開発が滞ってしまいますし、翌年度以降、キーマンの転出・配転後にもスキル保有者を部署に残すためには、各部署から複数名を選出することが望ましいと考えたからです。同時に、ITの専門知識は必須ではないものの、ITに抵抗感のない人、現行業務に課題意識を持ち改善への意欲が高い人材を選出することをリクエストしました。
その結果、自身で手を挙げた人も含めて13グループから計42人が参加し、コミュニティはスタートしました。社内では2025年3月から2026年3月にかけて計19回の勉強会を開催し、後半には、生徒だったメンバーが講師役を務めるようになりました。
外部講師の協力のもと、実際に手を動かしながら学ぶ2日間のハンズオン研修も実施しました。その後も約3カ月にわたり2週間に1回程度、面談を行い、ツール開発に関する悩み相談に乗ってもらいました。さらに、南さんが2025年6月から8月まで大分製油所に常駐し、現地での開発を伴走支援しました。

南:初めてメンバーの皆さんに接した時にすごいなと思ったのは、自分の業務をもっと良くしたいという強い思いを持っていたことです。ツールの開発にあたっては、各グループの業務内容や改善できる点などを詳しく説明してもらう時間を持ちました。1グループにつき1~2日をかけ、13グループすべてへのヒアリングに、約1カ月かかりました。多様な業務のインプットで脳を酷使した1カ月でしたが、大分製油所の業務を横断的に理解する良い機会でした。
支援業務においては、メンバーの自立を促すことを強く意識しました。「市民開発」は、実際に業務でツールを使用する人自身が主体となって進めることに意義があると考えています。使う人が自ら手を動かさないと、その後の改善やメンテナンスも継続的に行うことが難しくなります。ですから、「こういう機能にしたい」と相談された時には「じゃあ、一緒に調べましょうか」といった形で、サポート役に徹しました。
小野:コミュニティには、改善やDXを専任で担うメンバーはおらず、全員が日常の業務と並行して「市民開発」の勉強や改善点の洗い出し、ツールの開発に取り組みました。私自身も2025年度から新たに大分製油所 環境安全グループのチームリーダーとなり、保安・防災業務が本務となりました。そのような中で、「市民開発」関連のイベントを企画してメンバーのDXスキル向上を促したり、開発が滞っている人をサポートしたりといったところまで手が回らないことがありました。
しかし、南さんがその役割を担い、機動的に私の分をカバーしてくれました。南さんが大分に来てくれたことはメンバーにとっても刺激となり、「デジタル推進部に恥ずかしいところは見せられない」、「南さんがいるうちにたくさんイベントを企画しよう」という意識が高まりました。コミュニティ全体の発奮を促す大きなきっかけとなったことに心から感謝しています。

南:大分製油所での駐在は2025年8月まででしたが、それから2026年3月まではリモートで相談に乗ったり、大分で成果発表会が開かれた時には皆さんの発表を聴きに足を運んだりしました。
本社に戻ってしまうと、現地にいた時ほどリアルタイムの情報は入ってこないのですが、コミュニティで運営しているTeamsのチャネルを通じて、精力的に活動している様子や新しい取り組みをわくわくしながら見ていました。
そうした中で、「こういう仕組みを作りたいのですが、何を使ったらできますか」とか、「動き出したアプリを少し改善したいんです」といった相談は、引き続き幾つもありました。
大分を離れてからも頼ってもらえたのは私自身嬉しかったですし、そういう関係性を3カ月で築くことができて良かったなと感じました。
前編のサマリー
ENEOSでは、大分製油所がデジタル推進部の協力を得て2025年3月からOITA効率化コミュニティを立ち上げ、2026年1月末までに51件もの「市民開発」による業務効率化ツールの開発に成功しています。本記事ではOITA効率化コミュニティが発足したきっかけや、非IT系の社員がどのようにツールの開発に取り組んだのか、当事者の2人の話を紹介しました。後編では、取り組みの成果やそれに対する評価、今後の課題などを話してもらいます。お楽しみに。

大分製油所 環境安全グループ 小野 拓也
前職を経て、2020年9月にENEOSへ入社。大分製油所 製油技術グループにて石油精製プロセス改善、DX推進担当を務めた。2025年4月より環境安全グループ 保安管理チームリーダーを務める。現在は、製油所の保安・防災活動の推進、操業に関わる法規管理、関係行政との連携、保安防災管理など、製油所の安全を守る幅広い業務を担っている。OITA効率化コミュニティでは、現場の業務改善・効率化の推進・市民開発人材の育成に取り組んだ。

デジタル推進部 デジタル推進3グループ 南 帆乃香
2021年4月にENEOSへ入社。IT戦略部(現・デジタル推進部)にて、社内のDX案件の企画・推進や、基幹業務システムの刷新プロジェクトなどに従事。現在はデジタル推進3グループに所属し、製油所の運営を支える業務システムの企画・導入・刷新を、各プロジェクトの推進・管理を通じて担っている。OITA効率化コミュニティではデジタルの観点から現場の改善テーマを具体化し、施策の推進を主導するとともに改善活動の浸透・定着に取り組んだ。


