地球に優しい最先端の炭素材「ニードルコークス」って何?

2026.5.25
製油所
ENEOS 麻里布製油所

産業界の脱炭素化が進む中で、“CO₂削減貢献材料”として注目されている石油精製の副産物が「ニードルコークス」です。ニードルコークスとはどんな物質で、どのような用途に使われているのでしょうか。ニードルコークスの“名付け親”の一人でもある、ENEOS麻里布製油所 製油技術グループ(工学博士)の大山隆さんに解説してもらいました。

この記事の目次

ニードルコークスってどんなもの?

 ニードルコークスは黒鉛の前駆体(生成する前段階の物質)で、炭素繊維の結晶が針のようにきれいに並んだ形状をしていることからニードル(針)コークス(炭素)と命名されました。「石油コークス」などの名称で呼ばれることもあります。ニードルコークスを約3,000度で焼成することによって、導電性や熱伝導性に優れた物質となります。

どんなふうに作られているの?

 ニードルコークスの原料は重質油です。麻里布製油所(山口県和木町)では、ニードルコーキング装置(熱分解)とカルサイニング装置(炭化処理)という2つの装置で処理し、ニードルコークスを製造しています。

 原料となる重質油は脱炭素化の流れで需要が減少しているため、各製油所では石油精製プロセスで生じた重質油の余剰分はガソリン、灯油、軽油などのより付加価値の高い製品に加工しています。ニードルコークスの製造も付加価値をつける一環で、麻里布製油所では他の製油所で生じた重質油の余剰分も集めて、ニードルコークスを製造しています。

 電気炉を用いた製鉄方法は、鉄のリサイクルと二酸化炭素排出の削減に寄与するため、近年注目を集めています。ENEOS製のニードルコークスは、原料や操業技術の研究による優れた品質が評価されており、製鉄所で使用される電気炉用の高品質な黒鉛電極の原料として、グローバル市場で高いシェアを誇っています。

何に使われているの?

 産業用では主に、前述した製鉄所電気炉の黒鉛電極に使われます。

 鉄鋼の製造法には、鉄鉱石から鉄を作る「高炉法」と、鉄スクラップから作る「電炉(電気炉)法」があります。電炉法の方がCO₂の排出を大きく抑制でき、鉄のリサイクルも増えていることから、近年は世界的に高炉法から電炉法へのシフトが進んでいるため、ニードルコークスの需要に期待できます。

 そのほかの用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HEV)、蓄電池、スマートフォン用のリチウムイオン電池用の炭素材として使用されています。

進む多用途化、期待の“第三の活用法”とは?

 麻里布製油所では、ニードルコークスをベースとした新たな環境資材の試験製造も始まっています。

 以前から、本来の用途であるリチウムイオン電池の電池機能と、製油所として重要な腐食対策の知見を融合した新しい炭素材(新環境素材)の役割を模索してきました。そして2023年からは広島市の煉炭生産会社と協業し、その新環境素材を使って、「二価の鉄イオン(藻類が栄養素として吸収しやすい状態)などの栄養素を海に溶出させ、海藻や魚介類を増やすことで海を豊かにする」という取り組みを本格化しています。

 具体的には、ニードルコークス、鉄、キレート剤、竹炭などを配合し、黒鉛電極のノウハウを応用した製造方法で、豆炭のような固形物を作りました。これを海に投入すると、海水中に二価の鉄イオンと珪素が溶け出して、それが海藻や魚介類の栄養分になると同時に、ヘドロが分解されて水が浄化されるといった効果が期待されます。

 高純度のニードルコークスと鉄を材料としているので、有害な重金属などが溶出することはありません。メダカを使った実験でも安全性が確認されています。

※煉炭:石炭やコークス、木炭などの粉を結着剤と共に蓮根状の穴のある円筒形に成型した固形燃料。

気になる新環境資材の効果は?

 麻里布製油所では、地元の和木町や山口県などと協力し、新環境資材を使った実証実験を重ねてきました。

 漁獲量が減っていたアサリの再生を目指した和木町における取り組みでは、アサリの生存率が回復し、「親子の潮干狩りイベントが復活して家族の触れ合いや思い出作りができた」と大好評でした。広島県江田島市のカキの養殖でも、新環境資材の投入によってカキの生存率がアップし、個体が従来よりも大きく成長しています。

 さらに和木町では、用水路に実験的に新環境素材を投入したところ悪臭の除去に成功したため、範囲を広げ、結果的に実験を行った全ての用水路から悪臭をなくすことができました。同様に、山口市の嘉川八幡宮の池や下関市立岡枝小学校の池にも投入し、ヘドロを分解することにより短期間で水を浄化する効果を発揮し、関係者の皆様に喜んでいただきました。

 こうした結果から、今後はENEOSホールディングスの中央技術研究所で商品化を検討していく予定です。麻里布製油所では、引き続き地域貢献を行いながら、新環境資材の更なる効果向上に取り組んでいきます。

まとめ:ニードルコークスで描く未来

 日本の製鉄業界では、今後、電炉法への移行が本格化するといわれています。黒鉛電極用ニードルコークスをさらに進化させ、安定的な生産体制を築くことができれば、鉄のリサイクルを増やしCO₂排出量削減につながります。環境貢献度の高いリチウムイオン電池向けにも、高品質で安全な我々のニードルコークスを供給できるようにしたいですね。

 ニードルコークスの特性を生かした新製品も考案していきます。そのひとつである新環境資材で目指しているのは「地域への貢献」です。ENEOSの製油所は、地域の方々によって支えられています。新環境資材で海の海藻を増やし、CO₂を吸収することで、魚介類も増やして地域の食料生産に貢献したいです。また、近年は地球温暖化によりヘドロが増殖し池や用水路の状態が悪化しています。新環境資材を使って浄化し、住環境の改善にもお役に立てたらと考えています。