ENEOSグループは長期ビジョンとして、「エネルギー・素材の安定供給」と「カーボンニュートラル社会の実現」の両立に向けた挑戦を掲げています。デジタルトランスフォーメーション(DX)は、その実現に向けた重要な施策です。製油所においても、より確かな安全性と、エネルギーや素材の安定供給のために、AI活用などのデジタル戦略を推進しています。今回は、その製油所DXについて技術計画部のお二人に解説いただきました。全2回にわたり、ENEOSの製油所ではどのような技術が導入されているかをご紹介します。
この記事の目次
製油所でDX?
―DXとは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは簡単に言えば、AI、IoT※、ロボティクスなどのデジタル技術を活用して、社会や企業組織のあらゆる仕組みを根本から変革することです。単にデータを紙からデジタルに移し替えるだけでなく、AIを活用して業務そのもののやり方をより便利にしたり、効率化を図ったりするための考え方です。
※IoT(Internet of Things):「モノのインターネット」を意味し、家電製品・車・建物など、さまざまな「モノ」をインターネットと繋ぐ技術です。

―製油所ではいつからDXに取り組んでいるのですか?
本格的に考え始めたのは2018〜2019年頃です。その背景には、大きく2つの課題がありました。
1つ目は、人手不足です。少子高齢化による生産年齢人口の減少や、働き方、価値観の多様化に伴い、人材確保が喫緊の課題となっている中、製油所では熟練者の退職による技術伝承が課題となっていました。
2つ目は、設備の老朽化にともなうメンテナンスの負担です。1つ目の人手不足という点も影響しているのですが、高い精度の操業を維持しながらメンテナンス対応を行うことが運転員の大きな負担になっており、DXの推進は不可欠でした。
―製油所DXは、これらの課題にどのような影響を与えていますか?
AI自動運転は、業務効率化や熟練者の知見の継承を可能にし、AI解析では設備異常の早期発見を実現しています。これにより、製油所を取り巻く業務は大きく変化しています。製油所DXは人材不足を補いながら製油所の持続可能性を高め、安全で安定的な操業も実現しています。
人による装置の運転操作をAIで自動化「プラントのAI自動運転」
―ここからは、製油所で実際に使われているデジタル技術について詳しくお話を伺っていきます。まずは、「プラントのAI自動運転」について教えてください。
これは、AIが製油所の運転状況を判断し、リアルタイムで最適化するシステムです。従来は、定められたルールに従ってのみ自動運転が行われていました。しかし、現在のAI自動運転は、過去の運転員の操作をAIが学習し、現在の装置に合わせた最適な運転を行なってくれます。この学習により、安全かつ効率的な運転が予測に基づいて自動で行われる点が、従来とは大きく異なるポイントです。省力化という観点では、全体のプロセスで人の関わりの約40%削減を実現し、その時間を他の作業に充てられるようになりました。

―導入するにあたって、大変だったことはありますか?
このAI自動運転システムは、株式会社Preferred Networks※とENEOSが共同で開発し、前例がない中でのチャレンジだったため、実際に現場で活用できるまでの調整には苦労しました。はじめは製油所の運転員から、AIが提案してきた内容が難しいと相談を受けることもありました。その際は、都度すり合わせをし、モデルの理解を深めるとともに改善を図り、自動運転システムの構築に至りました。現在は川崎製油所に導入しており、今後も安定的な操業を続けるために、活用を継続していきます。
※株式会社Preferred Networks:AI技術で製造業、材料、生命科学などの現実世界の課題を解決する企業
装置の異常を事前に検知「Aspen Mtell」
―「Aspen Mtell」とはどんなシステムですか?
これは、AI解析によって設備の故障を事前に検知するシステムです。製油所には、温度や圧力、振動などを測る数万個のセンサーが設置されています。これまでは、それぞれのセンサーのデータごとにしきい値を設定し運転員が確認したり、現場で音や振動に異常がないかを調査していました。しかし、設備が故障してから異常に気づくのでは、修理の時間や費用で大きなロスが生じてしまいます。そこで、人間には判別できないデータ同士の相関性からAspen Mtellが故障につながる可能性がある異常の種を検知することで、重大な故障を回避することが期待されます。

―なるほど、それによって修理の時間や費用を最小限に抑えているのですね!
はい、それだけでなく、Aspen Mtellは製油所の安定した操業にも寄与しています。設備の不備に早い段階で気付けることで、必要な部品を事前に揃えたり、工事の予定を計画的に立てたりすることができます。これにより、設備の緊急停止による生産への影響を最小化できます。みなさんに安定した石油製品の供給を行うためにも、なくてはならない存在です。
―製油所の安定的な操業が、私たちの快適な生活につながっているんですね!
詳しくはこちらのニュースリリースから
製油所にある大量の情報を一括管理「デジタルツイン基盤(CDF)」
―「デジタルツイン基盤:Cognite Data Fusion(CDF)」とはどんなシステムですか?
デジタルツイン基盤は、製油所で日々生まれる膨大な情報を一つにまとめ、誰でも直感的に使えるようにしたシステムです。製油所の図面や日々の操業データ、設計情報など、製油所に関する全ての情報が一元的に集約されています。
このシステムの大きな特長が、これらの情報をデジタルツインの考え方で整理・可視化している点です。実際の製油所を計測して取得した点群データ※と、各種設備情報をひも付けることで、現場をデジタル空間上で立体的に把握できるようにしています。画面上では、製油所の現場を3Dで確認でき、操作感は地図アプリの実写表示機能に近いイメージです。
例えば、ある機器を選択すると、その機器に関連する図面や仕様、過去の情報などが一覧で表示されます。必要な情報を探すために、複数の資料やシステムを行き来する必要がなくなり、情報探しにかかる時間と手間がかなり改善できました。
また、デジタルツイン基盤では、膨大な情報同士の関係性を整理するために、AI技術も活用しています。人が一つひとつ対応していた「情報を探す」「結び付ける」といった作業をデジタルで支援することで、現場での判断や対応をスムーズにしています。
このように、製油所のデータをデジタルツイン基盤に集約・整理したことで、今後さらにAIを活用しやすい環境が整いました。データが整備され、意味づけされているからこそ、今後はAIによる分析や支援を段階的に広げていくことが可能になります。
※点群データとは:レーザー計測などによって取得した、無数の点の集合体で構成される3Dデータです。建物や配管、機器の形状を実際の現場に近い形で再現でき、製油所全体を立体的に把握するために活用されています。

―このシステムによって大きく変わった点はありますか?
データの検索にかかっていた時間と労力を大幅に削減できています。例えば、現場の機器で不具合が発生した際に、従来は書庫の資料ファイルから不具合が起きている機器の図面を探し、パソコンでそのデータに関連する情報を収集する作業が必要でした。しかし、デジタルツイン基盤の導入により、これらの作業をクリック一つで完結できるようになりました。運営の安全性を担保しつつ、より効率的なトラブル対処や生産性の向上につながっています。
詳しくはこちらのニュースリリースから
―製油所で働くみんなをサポートする非常に重要なシステムですね!
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技術計画部次世代技術グループ 甲田梨沙
2010年、東燃ゼネラル石油株式会社(現ENEOS株式会社)に入社。川崎製油所にアプリケーションエンジニアとして配属され、8年間にわたり制御システムの開発・メンテナンスに従事。現場の最前線でシステムを支えた後、2017年に工務部へ。DXの立ち上げから参画し、現在は技術計画部次世代技術グループのマネージャーとして製油所DXの全体戦略や企画の取りまとめを担当。ITやAI関連の部署と連携し、ENEOS全体のデジタル変革を推進する。

技術計画部次世代技術グループ 谷省吾
2015年、JX日鉱日石エネルギー株式会社(現ENEOS株式会社)水島製油所に運転員として入社。3年間、現場・ボード業務を経験した後、運転管理業務に5年間従事。運転管理のかたわら現場へのDX推進や受け入れを行う。2023年より本社の技術計画部次世代技術グループへ。現場での経験を強みに、タブレット端末やAI自動運転の導入など現場目線でのシステム改善や調整をリードする。
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まとめ
製油所では、自動運転や異常の早期発見、情報収集などにAIをはじめとするデジタル技術が活用されています。DXと聞くと、AIを導入することで人間の仕事が奪われるのではないかという懸念を抱く方もいらっしゃるかと思います。しかし、私たちが考える製油所のDXはそうではありません。AIが代替できる業務を任せることで、「製油所で働く人の負担を減らし、よりクリエイティブな業務に注力する」ことを目指しています。働きやすい環境を整えながら、より高い生産性と安全性の実現に向けて、今後も製油所DXに取り組んでまいります。


