ENEOS Xploraの「新統合DX戦略」、DXと事業計画統合でどう変わる?~前編 DXの主眼はトランスフォーメーションによる事業価値の最大化

ENEOS XploraはENEOSグループの主要事業会社の1つで、グローバルなエネルギー資源開発を担う。国内では新潟・中条で天然ガスや原油の生産を行い、海外では東南アジア、オセアニアなど複数拠点で30件以上のプロジェクトを展開している。さらに、2026年4月からはグループ内ポートフォリオ再編によって天然ガスサプライチェーン全体を担うこととなった。同社はこのようなビジネス領域の拡大にともない、事業価値の最大化を目指してDXを推進してきた。26年3月末には、デジタル戦略を刷新し、DX施策を事業計画に組み入れた「統合DX戦略」をリリースした。デジタル推進部の鈴木雄士さんに、同社のDX実践事例や新DX戦略策定の背景などを聞いた。

――事業内容を踏まえ、社内のDXを進めるうえでの課題をどう認識していますか?

鈴木雄士さん(以下、鈴木) 当社の事業には大きく2つの特徴があります。1つは油ガス田の開発・生産に加え、LNG(液化天然ガス)や国内天然ガス販売まで、サプライチェーン全体をカバーする事業を行っていることです。もう1つは、海外事業が収益の柱となっていることです。国内外に拠点が分散しているため、セキュリティを担保しながら安定的にネットワークをつなぐことが非常に難しい面がありました。一方で、海外拠点を含めたデータベース構築やデータ一元化が急務になっていました。

――これまではどのようなDXの取り組みをされてきたのですか?

鈴木 旧デジタル化戦略では、DXを単なるIT化ではなく、ビジネスの変革につながる取り組みと位置付けていました。そのうえで、長期ビジョンや第2次中期経営計画を踏まえ、既存事業の価値の最大化、デジタル化事案・新規事業の創出、新規事業のための人的リソースの確保を重点目標として取り組んできました。具体的には、保有データを企業の財産と捉え、拠点をまたいで必要なデータにアクセスできるよう、データ一元化を進めています。また、操業の効率化・生産性向上、評価技術の高度化に向け、ドローン、ロボティクス、AI・機械学習、フィールドテクノロジーなどのPoC(概念実証)や知見の蓄積を進め、社内にデジタル化の成功体験を積み上げることを重視してきました。

――デジタル化だけでなくトランスフォーメーションを意図した取り組みをされてきたのですね。よろしければ、拠点間データの一元化やPoCの具体事例をご紹介ください。

 鈴木 取り組みの主眼はあくまで当社の事業をより良くしていくことであって、DXITはその両輪です。そうした当社の方針を各拠点に説明し、同時に、各拠点が個別に進めてきた施策を紹介してもらう場として、昨年、DX/IT拠点間会議を開催しました。拠点間の連携を強めるには互いの顔を見て話をすることも大切だと考え、東京、新潟の中条、マレーシア、ベトナム、アメリカの拠点の担当者を本社に集めて対面形式でセキュリティ対策や各拠点での取り組みについて議論しました。会議を通じて生成AIの活用や情報プラットフォームの構築、人材やスキルの強化といった各拠点共通の課題が明確になり、担当者間の距離が縮まり、連携がしやすくなるなど、一定の成果が得られたと評価しています。

PoCについては、中条事業所において、操業現場におけるメタンガス排出の可視化に関する検証を実施しました。メタンガスはCO₂と比較して温室効果が高いうえに可燃性も高く、適切に管理しないと安全上のリスクを引き起こす可能性があります。そこで、国内の石油・天然ガス生産操業現場では初の取り組みとして、レーザー光で対象物を測定するLiDAR技術を用い、固定式連続モニタリングの有効性を検証しました。その結果、天然ガス生産・処理工程におけるベント作業時などに、LiDARカメラと固定センサーでメタンガスを検知し、デジタルプラットフォーム上でリアルタイムに可視化できることを確認しました。このPoCは、メタンガス排出の把握および可視化に関する技術的可能性を確認することを目的として実施したものです。

――そうした中で今年3月末にDX戦略を刷新し、新たに「統合DX戦略」をリリースしました。新戦略についてご説明をお願いします。

鈴木 旧デジタル戦略では主として、「デジタル化による変革の方向付け」や「個別施策の蓄積」に重きを置いていました。結果として成功体験の積み上げになりやすく、全社としての優先順位、所管、実行責任、効果測定をより明確にする必要がありました。そこで、統合DX戦略では、組織的かつ計画的にDXによる成果を着実に創出するために所管の明確化、トップダウン型の意思決定、KPI(重要業績評価指標)管理、ITガバナンスを一つの体系として整理している点が特徴です。先ほど申し上げた通り、当社にとってDXは事業をトランスフォームしていくことが目的ですから、事業の責任者である経営サイドが積極的に関与していく方針を明確にしたものです。

――DXを事業計画に組み入れ、KPIを設定し、実行後に効果を検証しながら改善していくということですね

鈴木 そうです。そこで、マネジメント直下に「統合DX戦略委員会」を置き、社長を委員長とし、戦略の見直しや年度ごとの重点施策の決定を行い、それを各部門や拠点の事業計画に反映させ、部門ごとに設置したDX推進者を中心に進めていく仕組みを構築しました。ポイントは、DX施策について責任の所在と実行主体を明確にしたことです。一般論として、DXに限らず新しい施策は、やる気のある人が自分の時間を削って取り組むという図式になりがちです。しかし、変革は個人ではなく組織として行うべきものですから、当社では経営主導でDX推進の役割を決め、進めていく形にしました。個々の社員についてはDX推進を人事評価上の目標として盛り込み、全社的な取り組みとして定着を図っていきます。

前編のサマリー

ENEOS Xploraは26年3月末にデジタル戦略を刷新し、新たに「統合DX戦略」をリリースした。新DX戦略は、DX推進の施策を各部門の事業計画に組み込み、KPIを設定してPDCAサイクルを回す仕組みを導入している。中でも、DX推進における責任の所在と実行主体を明確にした点が大きな特徴だ。本記事ではDX推進の一翼を担うデジタル推進部の鈴木雄士さんに、DX/IT拠点間会議の開催など同社のDX実践事例や、気になる統合DX戦略の中身について聞いた。後編では、同社での生成AI使用の盛り上がりや、新DX戦略で目指す姿などを話してもらう。お楽しみに。