ENEOSマテリアルの「デジタルコア人材育成」~現場起点で進める業務課題解決と人材育成の実践~ 第2回 “特許の見える化”で特許最新情報の取得時間を大幅短縮
ENEOSグループで素材・機能材事業を担うENEOSマテリアルでは、製造プラントのAI制御や、マテリアルズインフォマティクスを活用した研究開発など、デジタルを活用した先進的な取り組みを進めてきました。こうしたデジタル活用を、製造・研究開発などの先進領域から各部門の日常業務へと広げていくため、2025年度から「デジタルコア人材育成プログラム」を開始しました。プログラム実施にあたり、デジタルコア人材を「DIY(Do It Yourself=自分でデジタルを活用した業務改善ができる)」人材と定義し、3年間で計100名の育成を目指しています。具体的には、eラーニングによる基礎学習、ローコードツール「Power Platform」のトレーニング、デザイン思考による課題検討ワークショップなどを経て、グループまたは個人でデジタルを活用した業務改善を実践します。初年度は20~30代を中心に51名の社員が参加しました。2025年12月に行われた成果発表会では部門ごとの課題解消をデジタルで実現した多様な事例が紹介されました。本記事では、成果発表会で高い評価を得た3つの開発事例を紹介します。第2回は、一人で「特許出願の見える化(ダッシュボード、リスト)」を完成させた研究開発本部 研究開発推進部の本多さんに、開発までの道のりや成果物に対する周囲の反響などを伺いました。
――本多さんはENEOSマテリアル社内の知的財産、いわゆる知財の専門家です。普段はどのような業務に携わっているのですか?
本多さん(以下、敬称略) 業務は大きく2つに分けられます。1つは、特許を出願して権利化する業務。もう1つは、出願した特許を管理する業務です。
当社には、出願後、審査を経て登録された特許が1000件以上あり、出願中の案件も含めてすべてデータベース化し、日々情報を更新しています。また、登録された特許を維持するには、毎年、特許庁に維持費用を納める必要があります。特許が多ければ維持費用も相応の額になるため、それらを可視化し、適切に確認することも重要な業務です。
――本多さんは、開発したいツールがあったうえでプログラムへの参加を決めたそうですね。
本多 はい。特許のデータベースには、どのような特許があり、それぞれがどのような状況にあるかといった情報は格納されています。
一方で、どの技術分野の特許が何件あるかといった情報は把握しづらい状況でした。
そして、経営判断に活用できる特許情報の社内発信をさらに充実させたいと考えていました。その第一歩として、特許情報の見える化が必要だと感じていました。言い換えれば、「特許を持っている会社」から「特許を活用している会社」へステップアップしたいという思いです。
そのような課題意識を持つ中で、社内にはPower Platformが導入されていました。Power Platformは、アプリ作成やデータ可視化、業務自動化を少ないコードで実現できるMicrosoftのツール群ですが、当時はどのように使えばよいか分からず、活用方法を模索していました。そのタイミングでこのプログラムの開催を知り、参加を決めました。

――開発は一人で進めていましたが、プログラムでは研究開発のチームとして活動されていたのですね?
本多 はい。研究開発本部から参加した5名でチームを組みました。メンバーには、私のような特許の専門家もいれば、日々実験に携わる研究者もいます。それぞれ抱えている課題感が異なるため、各自の課題に向けた開発を進める形になりました。
私が開発していたツールは、チームメンバーにも使ってもらう想定だったため、どのようなグラフや機能がほしいかといった要望を直接聞けました。そうした声を開発に反映できたことが、大きな助けになりました。
――開発にあたり、苦労されたのはどのような点ですか?
本多 最も大変だったのは、データの整理です。当社には、2022年のJSRからのエラストマー事業の分社化と、2024年のENEOS機能材事業の統合という2つの源流があります。それぞれ異なるデータベースから情報を統合していたため、データの整理に最も時間を要しました。
ただ、これは知財グループとしての課題でもあったため、データをアップデートしていく作業は、グループ内の技術部門ごとの担当者と一緒に進めました。今回の取り組みを通じて「きれいに整備されたデータがあってこそ、業務の効率化・高度化は実現できる」ということに気づきました。
それ以外は、比較的スムーズに進みました。特に印象に残っているのは、伴走支援をしてくれた外部のPower Platformエンジニアの方とのやり取りです。集中的に教えてもらおうと1時間程度の会議を設定したところ、事前に詳しい質問内容を送っていたこともあり、相談は5分ほどで解決。その時、伴走支援のありがたさを強く感じました。

――開発したツールは社内イントラネットで全社共有されているそうですが、周囲の反響はいかがですか。
本多 最も喜んでもらえたのは研究部門です。従来、特許の最新状況を確認する際は、それぞれの特許出願担当者に問い合わせたうえで、担当者が1~2時間かけて過去のデータと突き合わせながらExcelで資料を作成していました。それが今では、5分ほどで作成できます。さらに、研究部門でも直接データを取得できるようになり、大きな効率化につながっています。
営業部門からのアクセスもあります。今後、当社技術の強みや特徴を言語化できるようにツールを改良すれば、営業活動でも特許情報をさらに活用してもらえると考えています。
――まさに「特許を活用している会社」へ一歩踏み出した形ですね。今後の目標をお聞かせください。
本多 知財の担当者には、研究職出身の人が多くいます。特許法などの知識も必須のため、技術と法律のスキルセットを持っているのが一般的ですが、今後はそこにデジタルの要素が加わっていくのではないかと思います。
今回の経験を通じて、知財業務においても、デジタル技術の活用は業務の効率化にとどまらず、情報の活用価値を高めることにつながると実感しています。
例えば、特許文献は1件につき数千字から数万字に及ぶテキストデータであり、AIによる言語分析と非常に相性がよい領域です。今後は、知財DXと知財戦略の両面から、会社の競争力向上や将来の価値創造に貢献していきたいと考えています。また、知財グループのメンバー全員がDIYを実現できるデジタルコア人材になれるようサポートしていきたいです。


