ENEOSマテリアルの「デジタルコア人材育成」~現場起点で進める業務課題解決と人材育成の実践~ 第3回 “営業が即戦力として使えるツール”へのこだわり
ENEOSグループで素材・機能材事業を担うENEOSマテリアルでは、製造プラントのAI制御や、マテリアルズインフォマティクスを活用した研究開発など、デジタルを活用した先進的な取り組みを進めてきました。こうしたデジタル活用を、製造・研究開発などの先進領域から各部門の日常業務へと広げていくため、2025年度から「デジタルコア人材育成プログラム」を開始しました。プログラム実施にあたり、デジタルコア人材を「DIY(Do It Yourself=自分でデジタルを活用した業務改善ができる)」人材と定義し、3年間で計100名の育成を目指しています。具体的には、eラーニングによる基礎学習、ローコードツール「Power Platform」のトレーニング、デザイン思考による課題検討ワークショップなどを経て、グループまたは個人でデジタルを活用した業務改善を実践します。初年度は20~30代を中心に51名の社員が参加しました。2025年12月に行われた成果発表会では部門ごとの課題解消をデジタルで実現した多様な事例が紹介されました。本記事では、成果発表会で高い評価を得た3つの開発事例を紹介します。最終回となる第3回は、「販売受注管理ダッシュボード」を作成した営業・マーケティング本部営業企画部第二グループマネージャーの今井さん(右)と同第一グループの清田さん(左)に、開発の狙いや工夫、今後の展望を伺いました。
――営業・マーケティング本部のチームには、今井さん、清田さんに加え、タイヤ材料部第一グループの野澤さんも参加されています。まず、今井さんと清田さんがこのプログラムに参加したきっかけを教えてください。
今井さん(以下、敬称略) 私は営業企画部第二グループのマネージャーとして、機能材製品の事業管理に携わっています。営業をサポートしながら、予算実績管理や予算・中期経営計画の作成、投資案件の支援などを担当しています。
マネージャーになる前はツール操作が比較的得意でしたが、管理職になると他の業務も増え、最新のデジタルツールに触れる機会は限られていました。今回のプログラムは、操作を体系的に学べるよい機会になると感じました。
清田さん(同) 私は営業企画部第一グループで、主に実績管理や分析報告、委託先管理などを担当しています。キャリア採用で入社し、前職では営業部内のシステム担当に近い役割も担っていました。その経験から、システムによる業務改善には以前から関心がありました。今回のプログラムには、これまでの経験を生かしながら自分のスキルを伸ばせる可能性を感じ、参加しました。
――開発した「販売受注管理ダッシュボード」はどのようなツールですか。
今井 Microsoftのデータ可視化・分析ツールであるPower BIを使い、販売・受注に関する情報を可視化するダッシュボードを開発しました。受注データや販売見込み、実績、予算などの情報を取り込み、顧客・品種・担当者・期間別に状況を確認できるものです。
従来は、Excelでデータを整理・分析し、PowerPointでグラフ化したうえで、メールや会議で報告する流れでした。資料の作成や更新に時間がかかり、最新情報をタイムリーに把握しづらいことが課題となっていました。このダッシュボードでは、データを更新すれば、担当者が確認したい情報が即座に反映されます。見込みと実績の差や受注率なども、一目で把握できます。
――なぜ、このダッシュボードを開発テーマに選んだのですか。
清田 プログラムの中でテーマを決める時間があり、参加メンバー全員で分析しながら検討を進めました。当初は他にもいくつか案があり、例えば、技術担当者に頼らなくても営業部内で完結できるチャットボットのようなものも候補の一つでした。
今井 営業・マーケティング本部の本部長や部長にも意見を聞きながらテーマを決めました。プロジェクトの初年度ということもあり、本部長からも「どのようなことに取り組んでいるのか」と関心が寄せられていました。
私たちとしても、単なる研修の成果物ではなく、実際の業務に役立つ即戦力のツールにしたいという思いがありました。

――実用性を重視したのですね。その分、伴走支援を行う外部のPower Platformエンジニアの活用度も、参加チームの中で最も高かったと聞いています。
今井 基礎的な部分は、最初のeラーニングでしっかり学びました。ただ、私たちが目指すレベルに到達するには、それだけでは不十分でした。単に数字をまとめてグラフにするだけでなく、「この数字とこの数字を組み合わせて、こう見せたい」といった要望が多くありました。eラーニングやAIだけでは解決できないこともありました。そうした難しい課題に対しても、エンジニアの方が毎回的確に答えてくださり、とても助かりました。
清田 とにかくユーザーフレンドリーで、使いやすいことを最優先に考えました。そのため、見せ方には特にこだわっています。Power BIは表示スペースに制約があるため、ページごとにどの要素を入れるか、どのようにレイアウトするかを工夫しています。要素を詰め込みすぎると見づらくなるため、適切なバランスを取ることに苦労しました。

――実際のユーザーにヒアリングをしながら、意見を反映していったのですか。
今井 はい。野澤さんが営業担当なので、利用者目線で見やすさや使いやすさを確認してもらいました。同時に、野澤さんを窓口として、同じグループの方々にも実際に使ってもらい、意見をいただきながら改善を進めました。
役割分担としては、清田さんがデータのレイアウトやグラフ化を担当し、私は複数のデータを組み合わせ、表現したい内容を形にする部分を担当しました。
清田 成果発表会は12月に実施されることが決まっており、実質的な作業期間は3カ月ほどしかありません。早い段階でプロトタイプを作り、営業担当者に展開して評価を聞き、修正を重ねていきました。
――成果発表会では、投票で銅賞を受賞されました。実際に運用しているとのことですが、ユーザーの反応はいかがですか。
今井 ExcelやPowerPointほど広く浸透しているかというと、まだこれからです。便利だと感じていても、使うには心理的な抵抗感があり、十分に使いこなすにはもう少し時間がかかると感じています。そこは今後の課題であり、一緒に使い方を模索していくような働きかけも必要です。
清田 現在は、ユーザーが少しずつ慣れてきて、私たちに改善要望が届き始めている段階です。私たちとしても、ツールを固定化するつもりはありません。ニーズは時代に応じて変わります。一定の知識があれば、それに合わせて簡単に変更できるのがデジタルツールの良さだと思います。
今井 とはいえ、少人数でメンテナンスや維持を続ける状態では、本質的な改善は望めません。営業企画を中心に、このプログラムを通じてデジタルコア人材を増やし、Power BIなどの活用をさらに広げていくことが望ましいと考えています。
Power BIの可視化する力とAIの分析力を組み合わせることで、「デジタルツールが事業分析などを担い、人間は意思決定を行う」世界が、次第に現実味を帯びてきたように感じています。


