環境

気候変動のリスク/機会への対応(TCFD)

基本的な考え方

気候変動への対応は、エネルギー・素材を扱うENEOSグループにとって、経営上の重要なリスクであり、かつ機会です。
この課題に真摯に向き合い、その解決に努めてこそ、将来にわたって継続的に利益を生み出すことができると確信しています。この決意を明確に示すため、2040年長期ビジョンにおいて「アジアを代表するエネルギー・素材企業」「事業構造の変革による価値創造」「低炭素・循環型社会への貢献」という3つのありたい姿を掲げ、2040年度までに自社排出分のカーボンニュートラルを目指すことを表明しました。
この実現に向け、製油所・製造所、製錬所の省エネ化のほか、再生可能エネルギー、CO2フリー水素、CCS/CCUS等の事業の育成・強化を総合的に推進していきます。
また、ENEOSホールディングスは、2019年5月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言」に賛同・署名し、情報開示の強化・充実を図るとともに、2020年6月に経団連のチャレンジ・ゼロ活動に賛同・参画し、気候変動課題の解決に向けた技術開発に挑戦しています。

気候変動関連のガバナンス体制

当社グループは、当社社長を議長とする「ENEOSホールディングス経営会議」において、グループ横断的な視点から、将来の事業計画等の気候変動対応の審議および活動状況の総括・評価を行っています。また、経営会議での審議、総括・評価の結果を「ENEOSホールディングス取締役会」へ報告し、取締役会の監視・監督を受けています。

2020年度における審議の実績

取締役会
CSR(ESG)活動状況報告(5月)
第2次中期経営計画の策定(5月)
経営会議
CSR(ESG)活動状況報告(4月)
第2次中期経営計画の策定(5月)
次期リスク対応項目の選定(1月)

気候変動対応と役員報酬の連動

当社の役員報酬は、役割に応じて支給する月額報酬、業績に連動する賞与および株式報酬の3種類で構成しています。業績連動の賞与および株式報酬は、中長期的な視点に立った競争力の高い事業戦略を策定・実行するインセンティブとなり、ひいては株主価値の向上につながることを企図しています。
また、2020~2022年度の株式報酬は、CO2排出削減量を業績指標に加えました。詳細は「役員報酬の決定」をご参照ください。

シナリオ分析

当社グループは、国際エネルギー機関(IEA)の「World Energy Outlook(WEO)」を用いて、長期的な世界のエネルギー需要の見通しを定期的に分析しています。
2040年長期ビジョンの策定にあたっては、WEO2018の「新政策シナリオ(NPS)」のほか、パリ協定を踏まえた「持続可能な開発シナリオ(SDS)」を参照しつつ、「低炭素・循環型社会の進展」「デジタル革命の進展」「ライフスタイルの変化」といった3つの事業環境の変化が起こることを想定しました。
2040年の社会では「安価な再生可能エネルギーの大量導入」「ガソリン車大幅減」「分散型太陽光発電+蓄電池の普及」「資源のリサイクルインフラの拡充」が進むことを想定し、当社のベースケースとしては、国内燃料油需要はおよそ2017年比半減する一方、「低炭素・循環型社会の進展」に伴い、水素や再生可能エネルギーに対する需要が大きく増加すると見込んでいます。
これに加えて「デジタル革命の進展」に伴い、ベースメタルである銅やリサイクル資源、デジタル機器等に必要な高機能材料、先端材料等の需要も拡大していくと見込んでいます。

リスク・機会とその対応

当社グループは、2017年度からCOSO* ERMフレームワークに基づく全社的リスクマネジメント(ERM)を導入しています。このプロセスを踏まえ、気候変動問題に関するリスク・機会を下表のとおり特定しています。

  • *COSO(Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission:トレッドウェイ委員会支援組織委員会)が発表した内部統制のフレームワークで、世界各国で採用されています。

特定したリスク・機会と時間軸

区分 具体例 時間軸
移行リスク 政策と法 カーボンニュートラル達成のために要するコストの増加 中~長期
テクノロジー EV技術の進展による石油需要減少 中~長期
(需要減はすでに顕在化)
市場と評判 環境意識の高まりによる石油需要減少 短期
(需要減はすでに顕在化)
市場 石油上流資産の座礁化 中~長期
物理リスク 急性リスク 異常気象による極端な風水害の発生、過酷度の増加 短期
(異常気象はすでに増加)
慢性リスク 温暖化に伴う海面上昇 中~長期
機会 資源効率に関する機会 リサイクル資源に対する需要の増加 中~長期
エネルギー源に関する機会 再生可能エネルギー、水素に対する需要の増加
分散型エネルギーに対する需要の増加
中~長期
製品、サービスに関する機会 モビリティ産業における環境負荷低減への取り組み拡大
環境負荷の小さい電化社会に必要となる電子材料の需要増加
中~長期
市場に関する機会 デジタル革命、ライフスタイルの変化による分散型エネルギー市場に対するアクセスの増加 中~長期
レジリエンスに関する機会 レジリエンス確保に向けたエネルギーの多様化 中~長期

気候変動に伴うリスク・機会の財務影響

当社グループは、気候関連財務情報開示の重要性を認識し、TCFD提言に賛同・署名するとともに、TCFD提言に沿った情報開示の拡充に取り組んでいます。財務影響試算は、多くの潜在的リスク・不確実な要素・仮定を含んでおり、実際には、重要な要素の変動により、各シナリオとは大きく異なる可能性があります。

1.「移行リスク」による財務影響

  1. (1)カーボンニュートラル達成のために要するコストの増加
    当社グループは、CO2排出量を2040年までに1,700万トン削減することにより、自社排出分のカーボンニュートラルを目指しています。この全量を炭素クレジット購入により対応した場合、約900億円*1のコスト増加となりますが、当社は環境負荷の一層の低減と環境対応型事業の強化によってカーボンニュートラルの実現を目指すことで当該リスク対策に努めます。
    • *1炭素クレジット価格(52ドル/tCO2(IEA World Energy Outlook2020))×数量(1,700万トン)×為替
  2. (2)EV技術の進展による石油需要減少/環境意識の高まりによる石油需要減少
    IEA WEO2020のSTEPシナリオ*2では、2040年に国内石油需要が2019年対比で4割減少するとされています。この需要減少による影響は、第2次中期経営計画におけるエネルギーセグメントの石油製品等の営業利益見込みから、約400億円*3と想定しています。
    • *2各国のNDCベースの政策に加え、新型コロナウイルス感染拡大による影響を織り込んだシナリオ
    • *32020-2022年度 3,050億円÷3カ年×40%
  3. (3)石油上流資産の座礁化
    当社グループが有する石油上流資産の埋蔵量452百万バーレル(2020年度末時点、石油換算)は、現状の生産量(46百万バーレル/年)の約10年分に相当します。したがって、長期的なリスクは小さいと認識しています。なお、2020年度の石油・天然ガス開発事業の営業利益は28億円でした。

2.「物理リスク」による財務影響

  1. (1)異常気象(大型台風)による極端な風水害の発生、過酷度の増加
    2018年度、2019年度に発生した大型台風による補修費用の実績から、仮に同規模の台風被害を受けた場合、大型台風の直撃1回につき20億円程度の対応コストの発生が見込まれます。
  2. (2)温暖化に伴う海面上昇
    2018年度、2019年度に行った海面上昇対策(高潮対策設備の嵩上げ、排水ポンプの増強等)に要した費用の実績は、10億円程度でした。同様の対策を継続すると仮定した場合、年度当たり10億円の対応コストの発生が見込まれます。

3.「機会」による財務影響

  1. (1)リサイクル資源に対する需要の増加
    脱炭素・循環型社会やデジタル革命の進展に伴い、ベースメタルである銅や各種レアメタルの需要が増加すると見込んでいます。こうした需要増加に対応するためには、リサイクル資源の活用をさらに進めていく必要があります。
    当社グループの銅製錬事業では、すでに、必要な原材料の約12%にリサイクル資源を活用していますが、この比率を50%まで高める取り組みを進めています。2020年度は銅製錬、リサイクル事業で約300億円の営業利益を上げており、今後、さらなる利益規模の拡大を目指していきます。
    統合レポート2021 P.30「ハイブリッド製錬の推進」参照
  2. (2)再生可能エネルギー・水素に対する需要の増加
    脱炭素・循環型社会の進展に伴い、水素、再生可能エネルギーやEVに対する需要が増加すると想定しています。
    これらの2040年時点の市場規模を推定し、当社のシェアや営業利益率について一定の仮定を置いて試算した結果、1,000億円規模の営業利益を見込んでいます。当社は経済性も考慮しながら、これらの成長事業に積極的に取り組んでいくことで、企業価値の向上を図ります。
    統合レポート2021 P.23「CO2フリー電気・水素・燃料サプライチェーンの構築」参照
    さいたま市でのEVシェアサービス実証実験
    さいたま市でのEVシェアサービス実証実験
  3. (3)モビリティ産業における環境負荷低減への取り組み拡大/環境負荷の小さい電化社会に必要となる電子材料の需要増加
    脱炭素・循環型社会の進展に伴い、EVをはじめとする次世代自動車の普及が見込まれています。動力の如何にかかわらずタイヤは必要であることから、その原料である合成ゴム市場は国内外とも年率2~3%で成長することを見込んでいます。当社グループは、JSR(株)から、合成ゴムの主原料であるエラストマー事業を買収し、低燃費・高性能タイヤの原材料を主力製品とした高機能素材を提供することで、環境負荷低減に貢献していきます。このエラストマー事業は、2023年度には営業利益で約100億円の貢献を見込んでおり、以後、将来にわたり堅調に推移することを期待しています。
    統合レポート2021 P.24「エラストマー事業の買収」参照

    また、デジタル革命の進展に伴い、IoT・AI・ロボット等に必要な高機能材料、先端材料に対する需要は拡大し続けると想定しています。当社グループは、すでに、半導体用ターゲット、磁性材ターゲット等の電材市場において約60%の世界シェアを有しています。2020年度は機能材料事業や薄膜材料事業等において約300億円の営業利益を上げており、今後、さらなる利益規模の拡大を目指していきます。当社グループの金属事業は、銅鉱山、銅製錬、リサイクル等も含めた事業全体において、2020年度に約800億円の営業利益を上げており、拡大が見込まれる銅需要を踏まえ今後も堅調に推移すると見込んでいます。
    統合レポート2021 P.29「生産能力の増強」参照

リスク・機会に対応した事業ポートフォリオの構築

当社グループは、特定したリスク・機会へ適切に対応して持続的成長を図るべく、これまで進めてきた構造改革を加速させ、強靭な事業ポートフォリオの構築を目指します。
事業ポートフォリオの構築にあたっては、当社グループの事業を、戦略投資を強化して育成していく「成長事業」と「基盤事業」の2つに大別しました。「基盤事業」である「石油精製販売」では、石油製品・エネルギーの安定供給を継続し、バリューチェーンの最適化、効率化・強靭化によるキャッシュ・フローの最大化を図ります。一方の「成長事業」は、新たに定めた5つの事業にフォーカスし、経営資源を効果的に集中していきます。

当社グループ事業の将来像(2040年に向けて)

  • 2020年5月に一部改訂しています。

指標と目標

当社グループは、2040年度までに自社排出分のカーボンニュートラルを目指すことを表明するとともに、そのマイルストーンとして、2020~2022年度を期間とする中期環境経営計画、2030年長期環境目標を策定しています。
CO2排出削減実績については、地球温暖化防止をご参照ください。

環境ビジョン
(2040年度)
当社グループは、環境負荷の低い事業を強化・拡大するとともに、環境対応型事業の強化を通じて、自社のCO₂排出分について2040年度にカーボンニュートラルを目指す。
長期環境目標
(2030年度)
「事業活動における省エネルギー対策の推進」および再生可能エネルギーを含む「環境配慮型商品*の販売・開発推進」により、2030年度 CO₂排出量について、2009年度比1,017万トン削減を目指すとともに、環境対応型事業を推進し低炭素・循環型社会の形成に貢献する。

中期環境経営計画

重点テーマ 基本的な取り組み 2022年度に向けた具体策
低炭素社会への貢献 事業活動における省エネルギー対策の推進
事業活動におけるCO₂回収
(スコープ1、2)
  • 省エネルギー対策の推進等により、CO₂排出量を2009年度比216万トン削減
  • CCS/CCUSの取り組み
サプライチェーンにおけるCO₂削減
(スコープ3)
  • 環境配慮型商品*の販売・開発推進により、お客様のCO₂排出量を2009年度比120万トン削減
水素、再生可能エネルギー事業の展開
  • 水素ステーションの事業展開
  • 再生可能エネルギー事業の展開
    バイオマス、太陽光、風力発電等合計92万トン削減

低炭素社会への貢献 CO₂削減目標 合計(2022 年度)=428 万トン削減